メインコンテンツに移動

A. LANGE & SÖHNE6年ぶりの東京で語ったあの人物の意志を継ぐランゲ哲学 02

デジタル表示は絶対条件!
そこから始まった設計手順

従来のミニッツリピーターで、時刻告知のストライキング時における雑音(ノイズ)の発生理由を、目の前に置かれたドリンク用ストローを軸に見立てて説明するデ・ハス氏

従来のミニッツリピーターで、時刻告知のストライキング時における雑音(ノイズ)の発生理由を、目の前に置かれたドリンク用ストローを軸に見立てて説明するデ・ハス氏。作動時の軸自体のブレや歯ムラ等とノイズの発生理由は多数存在する。そのためにも高精度なパーツ製造技術が求められる。しかし軸の製造時の歩留まりがかなり悪いので、厳しい精度管理が求められる。


「『ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター』の設計の基本テーマは、どのようにしてディスクを回転させるか。その実現方法が問題でした。まず前提としてデジタル表示は絶対に残したかった。(当モデルは3枚のディスクによる回転運動で時刻を表示するので)大きなディスクを回転させるためには大きなトルクが必要ですね。このトルク計算をしてからゼンマイの大きさを決めました。そしてゼンマイのパワーを上げるなら、長くするか二重香箱のように複数にするかという選択になります。そこで『ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター』では厚み(高さ)のある二重香箱のゼンマイを採用することにしました」(アントニー・デ・ハス氏。以下、同)

 今回(2023年)の18Kハニーゴールドケースには、2015年(1作目)と2020年(2作目)と同じ手巻き式のCal.L043.5が搭載されている(直径37.7×厚さ10.9mm。ケース径は直径44.2×厚さ14.1mm)。しかし前年の2022年10月に発表された18Kピンクゴールドとプラチナのモデルには、完全巻き上げ状態で72時間のパワーリザーブ機能を有するCal.L043.6が搭載されている(直径33.6×厚さ8.9mm。ケース径は直径41.9×厚さ12.2mm)。改めて整理すると、2022年の18Kピンクゴールドとプラチナケースのモデルは第二世代「ツァイトヴェルク」で、今回の18Kハニーゴールドモデルは第一世代グループに所属する。この搭載ムーブメントの振り分けの理由は聞きそびれてしまった。


「また、あえてゼンマイは短めにし、そこを補う形でルモントワール機構を設置したのです。ルモントワール機構で第1香箱のゼンマイに1分間分のエネルギーを蓄えたら、第2香箱へリチャージします。よって絶えず第2香箱にリチャージする機構なので、トルクを蓄えることができます」


 ちなみに「ツァイトヴェルク」コレクションが初めて発表された2009年以降、主なA.ランゲ&ゾーネの“音鳴り時計”は以下のとおりになる(「ツァイトヴェルク・デイト」や「グランド・コンプリケーション」等は除く。なお、「ツァイトヴェルク」第二世代モデルは2022年に発表されている)。

●2011年「ツァイトヴェルク・ストライキングタイム」
●2015年「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター」(ロジウムカラーダイアル+プラチナケース。世界限定30本)
●2017年「ツァイトヴェルク・デシマルストライク」
●2020年「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター」(ディープブルーダイアル+18Kホワイトゴールドケース。世界限定30本)
●2022年「リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーター」
●2023年「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター・ハニーゴールド」(グレーダイアル+18Kハニーゴールドケース。世界限定30本)





ミニッツリピーター最大の難点
あの“耳障りな”ノイズを消去


 ところで、私にはミニッツリピーターに対する長年の不満があった。ガバナー作動時におけるノイズの発生である。トゥールビヨンやパーペチュアルカレンダーと並んで、複雑時計の三大機構に挙げられる名品を完成しておきながら、なぜ作動時にノイズが発生する問題を放置してきたのか。せっかくの名品が台無しではないかと思い、これまで素直に音に集中できなかった。まるでバッハの『無伴奏チェロ組曲第一番』の演奏中に、スマホのスヌーズ音が聞こえるようなものだ。一方、ランゲのモデルではノイズがきれいさっぱりに消去されている。


「通常モデルのように遠心ガバナーを使用していますが、我々の場合はフライングガバナーを使っています。他社も同じですが、問題は(と自分の飲み物のストローを手に取りテーブルの上に垂直に立てた)……、例えばこのストローをアクシス(axis=軸)だとしますね。この軸の上にはカナが付いていますが、なぜノイズが出るのかというと、この軸自体がブレるからです。このブレがノイズを発生させます。ノイズはストライキングの高音・低音の間にズーっと引きずるような音を出し続けます。この音がブレの音、つまりノイズの正体なのです。ですので(ブレを無くすためには)、その軸を完璧な精度で製作する必要があります。しかし、たとえば500本製造したとしてもブレない軸は100本くらいしかできません。それぐらい精密に作ることが難しいのです」


 デ・ハス氏の話を聞くと、時計の内部機構に与えるリピーターの振動力の強さにあらためて気付かされる。


「またノイズの出現はガバナーだけではなく、時計内部の様々な箇所からも発生します。ストライキングシステムを稼働させるためにはいくつかの輪列が必要ですが、歯車に歯ムラがあったり軸が精密に製造されていないと横振れが生じます。これらもノイズの原因になりますね。ひとつひとつの歯車が完璧な精密さで完成しないといけませんので、我々は個々のマイナス要因を排除すべく、厳密な精度管理でパーツを製造しています」


 時計の複雑機構の中でも、ミニッツリピーターは聴覚という五感に訴える極めて感覚的な特殊時計である。その音質はケースの素材によって当然異なってくる。前日に行われたプレス向け説明会でデ・ハス氏はこう語った。要約すると、ミニッツリピーターの製造に挑む際にランゲが主眼を置いているのは、ピンクゴールドやプラチナ等の中でどの素材がいちばんリピーターの音質に最適なのか? というベストマテリアルの選定ではなく、それぞれの素材において個々に最高の音質を追求するということだった。どの音がいちばん自分にマッチするのかは、顧客の好みやフィーリングが決めること。時計会社として個々のマテリアルにおける最高音質は追求するが、商品を選択する最終判断は顧客の“好き嫌い”、“合う合わない”にお任せする、ということだと理解した。ミニッツリピーターのような感覚型特殊時計に関しては、これが正しい考えではないかと思う。たとえば同じギターでもボディの素材や年代違いでさまざまな音を奏でる。その選択がギター好きにはたまらなのだ(だから何本も果てしなく揃えることになる)。


 さて、音鳴り時計についてはこれでおしまい。次は、登場と同時にランゲ史上でもひとつのセンセーションを巻き起こした、あの時計について聞いてみた。








取材・文:田中克幸 / Report & Text:Katsuyuki Tanaka
写真:高橋敬大 / Photos:Keita Takahashi
協力:A.ランゲ&ゾーネ / Thanks to: A. LANGE & SÖHNE


INFORMATION

A.ランゲ&ゾーネ(A. LANGE & SÖHNE)についてのお問合せは・・・

A.ランゲ&ゾーネ
〒102-0083 東京都千代田区麹町1-4
TEL: 0120-23-1845

A.ランゲ&ゾーネのオフィシャルサービスはこちら facebook facebook youtube youtube instagram instagram

A.ランゲ&ゾーネ ブランドページを見る

NEW RELEASE

新着情報をもっと見る