ウェブを軸としてあらゆる流通への対応を模索しはじめた時計業界
このように先行き不透明なのは、何も『HOURUNIVERSE』に限りません。スウォッチグループのハイエンド・ブランドによる『TIME TO MOVE』も現時点では開催が表明されていません。またフランク ミュラーを軸とするウォッチランドグループによる『WPHH』についても、今のところ開催についてのニュースは届いていない状況です。
その中で確かに言えることは、2021年も2020年と同様に、ウェブによるリリース配信およびライブ・エキシビションや、マスコミ媒体ごとの個別で小規模な発表会・展示会によって新作を発表していくというスタイルを各ブランドがとるであろうということです。
実際、このようなスタイルでも大きな不便はありません。それどころかスイスまで出向くことなく新作の取材ができれば時間も経費も削減できることになります。しかし、ウェブを通してだけの取材では実際にその時計を装着した感触や操作性にまで踏み込んだインプレッションをお伝えすることが難しいのです。また、ジュネーブやバーゼルの巨大見本市は単なる新作発表の場ではなく、時計界におけるお祭りであり、長年この業界で働いてきた人々が1年ぶりに再会してビジネス上の情報を交換したり、健在ぶりを確認したり、旧交を温めたりする貴重な場でもあるのです。
そんな時計界の祝祭がほぼ突然に消滅してしまうことは、業界にとって必ずしもプラスになるばかりではないようにも思います。
とはいえ、時計の紹介を通じてメーカーと小売店、顧客を結びつけることを使命として誕生したウェブ媒体であるGressiveとしては、新作時計の発表が、たとえどのような形態であっても取材を止めるわけにはいきません。
この原稿を書いている2021年2月下旬の時点において、未だ新型コロナ感染症の先行きは不透明ではありますが、メーカーや代理店によるウェブ発表をベースとして、新作時計の紹介を続けていくことに変わりはありません。その上で読者の方々に、よりリアルで実感の伴った情報をどのような形でお届けすべきかを、メーカーや販売店と共に考えていきたいと考えています。
文:名畑政治 / Text:Masaharu Nabata