GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2022「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2022」全記録“金の針”賞+部門賞20賞…拡充するGPHGの傾向と分析 04
第22回GPHG 2022
全受賞ブランドの分析と過去受賞歴_Part.2
Diver's Watch Prize(ダイバーズウォッチ賞)
TUDOR(チューダー)
PELAGOS FXD(ペラゴス FXD)
1950年代より仏海軍や米海軍に制式採用された実績を持つチューダーのミリタリーダイバーズ。今回の「ペラゴス FXD」がGPHGでの初のダイバーズ賞となったが、これまで同賞を受賞しなかったのが不思議なほどである。チューダーの初受賞は2013年のリバイバル賞。その2年後の2015年から今回の2022年まで、2018年を除いて毎年連続で7回も受賞し、初受賞と合わせて計8回の受賞実績となった。しかも、その内3回が“小さな針”賞という好成績だ(2016年、2017年、2021年。これら以外は2015年のスポーツウォッチ賞、2019年と2020年はチャレンジウォッチ賞)。さてその本領のダイバーズについて述べると、チューダーは1950年代から1980年代まで仏海軍への納入実績を持ち、1956年の仏海軍附属機関による実機テストの結果、1961年に同海軍の“マリーン・ナシオナル(Marine Nationale)”の正式サプライヤーの地位を得た歴史を持つ。今回の受賞モデルはチューダーが新ためて仏海軍戦闘ダイバー部隊「コマンドー・ユベール」と共同開発を行ったダイバーズ。かつて仏海軍納入モデルのRef.9401を顕彰するブルーダイアルとベゼル、スノーフレーク針とスクエア型のアワーマーカーの外装デザイン、さらに非磁性シリコンバランススプリング採用のCOSC認定自社製自動巻きムーブメント、Cal.MT5602を搭載する。
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Ref:25707B/21
ケース径:42.00mm
ケース厚:12.75mm
ケース素材:チタニウム(サテン仕上げ)
防水性:200m(660ft)
ストラップ:セルフグリップ着脱システムによるファブリックストラップ(ネイビーブルーにグレーのセンターライン入り)、テキスタイルモチーフがエンボスされたネイビーブルーのラバーストラップとチタニウム製バックルが付属
ムーブメント:自動巻き、Cal.MT5602、約70時間パワーリザーブ、25石、COSCによるスイス公認クロノメーター認定
仕様:時・分・秒表示、秒停止機能による正確な時刻設定、チタニウム製両方向回転ベゼル、セラミック製ディスク、連続した水中ナビゲーションをサポートする反時計回りの60分目盛り、固定構造のストラップバー、チタニウム製リューズ、スチール製ケースバック
価格:443,300円(税込)
Jewellery Watch Prize(ジュエリーウォッチ賞)
BVLGARI(ブルガリ)
Serpenti Misteriosi High Jewellery Secret Watch
(セルペンティ ミステリオーシ ハイジュエリー
シークレット ウォッチ)
2022年まで計22回開催されたGPHGの受賞ブランドの中で、ブルガリが本格機械式部門と複雑部門、さらに当然ながらジュエリー部門の多部門で受賞を重ねているのは、その恐るべき技術開発力と飽くなき美の追求心の証左である。ジュエリー部門に関しては、2014年のブルガリ初のGPHG受賞モデルとなった「ディーバ ハイジュエリー エメラルド」、2019年の「セルペンティ ミステリオーシ ロマーニ」、そして今回2022年の「セルペンティ ミステリオーシ ハイジュエリー シークレット ウォッチ」の3モデルが受賞。2019年に続き今回の受賞モデルもブルガリの十八番である蛇をモチーフとした18Kピンクゴールドケースに、ブリリアントカット・ダイヤモンドとターコイズインサートが施される。“シークレット”の意味は、巧妙に隠されたクラスプやキャッチを押すと時計が収納されたコンパートメントが開くことに起因する。さらにそこには直径12.30×厚さ2.50mmの手巻き式超小型ムーブメント、Cal.BVL100が収納される。機械、宝飾の極みに至った当モデルは、クローズアップ写真を見るだけでもその凄まじいまでの美の君臨に息を呑む。
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Ref.103558
ケース径:40mm
ケース素材:ピンクゴールド製ケースにブリリアントカット・ダイヤモンドとターコイズインサート。ケースバックにリューズ(時刻合わせと巻き上げの両方の操作が可能)。目の部分にペアカットルベライト2個(~約0.4ct)
ストラップ:ダイヤモンドとターコイズインサートを施したピンクゴールド製ダブルスパイラル・ブレスレット、計724個のダイヤモンド(~約18.05ct)
防水性:30m
ムーブメント:手巻き、Cal.BVL100 ピコリッシモキャリバー、機械式マイクロムーブメント、直径12.30×厚さ2.50mm、重さ1.30g、21石、毎時21,600振動、約30時間パワーリザーブ
仕様:時・分表示、パヴェダイヤモンドのダイアル
価格:35,662,000円(税込)
Artistic Crafts Watch Prize
(アーティスティック・クラフト・ウォッチ賞)
VOUTILAINEN(ヴティライネン)
WORLD TIMER 216TMZ“JI-KU”
(ワールドタイマー 216TMZ“JI-KU-時空-”)
漆工棟梁の北村辰夫氏による漆芸装飾の“彩影蒔絵”をダイアルに採用したワールドタイマー。切貝や切金によって彩られた細密画による太陽の眩い光を表現したダイアルは、世界に溢れる“時間の光線”を表現したもの。2007年の「Montre bracelet ‘OBSERVATOIRE' Voutilainen」のメンズウォッチ賞に始まり、ヴティライネンの受賞は今回も含めて通算9度目。その内の4回がアーティスティック・クラフトウォッチ賞で、2014年「Hisui(翡翠)」、2017年「Aki-No-Kure(秋暮)」、2019年「Starry Night Vine」、そして今回の「ワールドタイマー 216TMZ“JI-KU”(時空)」である。4モデル中3モデルが和名を元にしていることから分かるように、これらは漆工芸とのコラボレーション・モデルだ。カリ・ヴティライネン氏は日本伝統工芸の漆に関心が深いようで、2014年と2017年は漆工棟梁の「雲龍庵」、そして今回は前述の北村辰夫氏との共作となった。
“Petite Aiguille” Prize(“小さな針”賞)
TRILOBE(トリローブ)
Nuit Fantastique Dune Edition
(ヌイ ファンタスティック デューン エディション)
2018年12月にゴーティエ・マソノー氏がフランスで創設した、パリ・デザイン&スイスメイドの“針の無い時計”=トリローブ。創立翌年の2019年に続き2020年、2021年と3年連続して“小さな針”賞でノミネートされており、そのデビューが時計界にセンセーションを巻き起こしたことが窺い知れる。“TRI”=3つの、“LOBE”=葉という言葉がこの時計を明確に表しており、反時計回りに回転運動をする3枚の偏心可動ディスクによる時刻表示システムを搭載。今回の受賞モデル名の“DUNE(砂丘)”から連想されるサンドカラー・ダイアル上には、外周部のアワーディスクで“時”、11時のスモールミニッツディスクで“分”、7-9時のスモールセコンドディスクで“秒”を表示。極めてシンプルかつミニマルな時計で、クロノード社の協力によるマイクロローター採用の自社製ムーブメント、Cal.X-Centric搭載。見た目から理路整然と設計された建造物を想起される方もいるかも知れないが、マソノー氏の経歴を見れば想像がつくだろう。彼は経済・経営専門のパリ-ドーフィンヌ大学と土木工学の仏国立ポン・ゼ・ショセ大学院、さらに早稲田大学院を卒業した秀才。親日家であるらしく2020年から本社公式HPには日本語ページも設けられている(https://trilobe.com/ja/)。
Challenge Watch Prize(チャレンジウォッチ賞)
M.A.D. Editions(エム・エー・ディー エディションズ)
M.A.D.1 Red(エム・エー・ディー ワン レッド)
名称から察する方も居られると思うが、M.A.D. Editionsは今回“金の針”グランプリ賞を受賞したMB&Fのマキシミリアン・ブッサー氏プロデュースの時計ブランドである。彼はジュネーブ旧市街にアート・ギャラリー「M.A.D.GALLERY」を常設しており、限定的に提案されていたモデルが一般化されたものが「M.A.D.1 Red」ではないかと思われる(GPHGの資料を参照した)。ダイアル全面を覆う3つの斧(axe= アックス)型ローターは、MB&Fの「HM マシン N°3」等に見られるMB&Fのスタイル。ケース側面には“時”と“分”を表示するシリンダーが装備されており、時刻の読み取りは時計のサイド面で行うが、これはスヴェン・アンデルセンの「モントレ・ア・タクト」や過去のアラン・シルべスタインの時計と同様のスタイルだ(ちなみにMB&FのHPを見ると「LM1 シルべスタイン」が掲載されている)。受賞部門のチャレンジウォッチ賞は販売価格が3,500スイスフラン(約500,000円と捉えて良いだろう)以下のモデルに与えられているので、当モデルの販売価格3,125スイスフランは挑戦的でMADな時計が好みの方には一考に値するのではないか。
Mechanical Clock Prize(メカニカル・クロック賞)
Van Cleef & Arpels(ヴァン クリーフ&アーペル)
Fontaine Aux Oiseaux Automaton
(オートマタ フォンテーヌ ゾワゾー)
ヴァン クリーフ&アーペルは、これまで「ポエトリー オブ タイム®」等で腕時計でのオートマタ機構を開発しており、空想の物語を技術で表現する“時計演出”を見ることは毎年の旧SIHHでの大きな楽しみだった。しかし今回、新設されたメカニカル・クロック賞を受賞した「オートマタ フォンテーヌ ゾワゾー」は次元がまるで異なる。このモデルは水盆で繰り広げられるオンデマンド アニメーションと、水盆台座のレトログラード時間表示というふたつのスペクタクルを完成させた驚異のミュージアムピースである。水面のさざ波、花開く睡蓮、羽ばたく蜻蛉(とんぼ)、そして水盆縁の二羽の鳥は嘴(くちばし)を動かし、頭を下げ、羽根を羽ばたかせ縁を移動する。この驚異の世界は、仏の技術者ジャック・ド・ヴォーカンソン(1709~1782)が1738年に発表した“水を飲み、穀物をついばみ、ガアガアと鳴いて、水をはね飛ばして歩き、排泄までする”という「あひる」の21世紀版である。機械技術と工芸技法が高次元で結びついた博物館クラスの超・逸品には驚かざるを得ない。
Innovation Prize(イノベーション賞)
Van Cleef & Arpels(ヴァン クリーフ&アーペル)
Lady Arpels Heures Florales Cerisier Watch
(レディ アーペル ユール フローラル スリジエ ウォッチ)
ダイアル上に散りばめられた12輪の花が時を知らせるポエティックなモデルが「レディ アーペル ユール フローラル スリジエ ウォッチ」。時間が1時間ごと進むにつれて、順番に各々5枚の花弁を持つ花が開いて“時”を告げるのだが、同じ位置の花が次々と開いて行くわけではない。すでに開いている花は一度閉じてから、次に別の場所の花がランダムに開いていく。例えば3時(3枚の花が開いている状態)の次の4時では、3枚の花がすべて一度閉じてから異なった場所で4枚(4時)の花が開く。この時刻を告げる花の開花ローテーションを管理するのが全166コンポーネントに分けられた266枚の歯車。なお“分”はケースサイドの9時位置に設置されたシリンダーが表示する。これはダイアルという小庭園で繰り広げられる時の花壇である。(※参考資料:『webChronos』2022年3月31日公開記事)。
Audacity Prize(オーダシティ賞)
BVLGARI(ブルガリ)
Octo Finissimo Ultra 10th Anniversary
(オクト フィニッシモ ウルトラ 10周年記念モデル)
少し古い話になるがブルガリが本格的に時計産業に参入したのは1977年。1980年代初頭にはスイス・ニューシャテルにブルガリタイム社を設立。その後21世紀に入り確固たる戦略の元でマニュファクチュール化を徹底的に推進し、ローマ、スイス・ニューシャテルとル・サンティエのトライアングルで研究・開発・製造を進める。その成果のひとつが2012年発表の「オクト」だ。さらに2014年の「オクト フィニッシモ」と合わせてブルガリが目指す目標のひとつが、本格機械式時計の“薄型化”。今回のオーダシティ賞(audacity=大胆な、豪胆な)受賞は当然のことで、受賞モデル「オクト フィニッシモ ウルトラ 10周年記念モデル」を30cmぐらいの距離から見ると、厚いペーパーで出来ているのか? 現実の世界の時計か? という妙な錯覚に襲われる。このような経験は滅多にない。チタン製ケースの直径40.00mmに対し厚さは1.80mmというおそるべき薄さ、つまりブレスレットも同様だ。またリューズに替わり回転ディスクを採用し10時位置はQRコードのようなエングレービングが施される。時刻表示はレギュレーター・スタイルを採用。さらに付属の専用ボックスはセットされた時計の巻き上げと時刻合わせを自動的に行う。なおブルガリは2014年に「Diva High Jewellery Emeralds」のジュエリーウォッチ賞受賞を皮切りに、2017年には「オクト フィニッシモ オートマティック」がメンズウォッチ賞、「オクト フィニッシモ トゥールビヨン スケルトン」がトゥールビヨンウォッチ賞でダブル受賞。さらに2019年も「オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT オートマティック」がクロノグラフウォッチ賞、「セルペンティ ミステリオーシ ロマーニ」がジュエリーウォッチ賞でダブル受賞。この勢いは止まらず2020年は「アルミニウム クロノグラフ」でアイコニックウォッチ賞、そしてついに2021年は「オクト フィニッシモ」で“小さな針”賞を受賞する。今回のダブル受賞も合わせると通算9回の受賞成績で、これは受賞実績のある全80ブランド中、同率6位の成績。このことからも今回の受賞は当然の帰結である。
Ref:103611
ケース径:40.00mm
ケース厚:1.80mm
ケース素材:チタン、タングステンカーバイド
防水性:10m
ストラップ:超薄型チタン製ブレスレット、フォールディングバックル
ムーブメント:手巻き、Cal.BVL180、約50時間パワーリザーブ、毎時28,800振動
仕様:アワーカウンター、ミニッツカウンター、ブラックのPVDインジケーター付セコンドホイール、サンドブラスト加工を施したステンレススティール製タイムセッティングホイール、サンドブラスト加工を施したステンレススティール製ワインディングホイール、サンドブラスト加工を施したステンレススティール製ラチェットホイールに各ウォッチ専用のNFTアートにリンクする固有のQRコードをエングレービング、プレゼンテーションボックスが付属
限定:世界限定10本(完売)
Chronometry Prize(クロノメトリー賞)
Grand Seiko(グランドセイコー)
Grand Seiko Kodo(グランドセイコー Kodo -鼓動-)
今回のクロノメトリー賞の受賞は、グランドセイコーとしては初受賞でいきなり“小さな針”賞を受賞した2014年の「グランドセイコー メカニカルハイビート36000 GMT」、2021年にメンズウォッチ賞を受賞した「エボリューション9 コレクション メカニカルハイビート36000 80 hours 『キャリバー9SA5』」に続く3回目の受賞となる。セイコーブランドも含めれば計7回の受賞数は、2022年までに受賞した全80ブランド中では同率13位。これはF.P.ジュルヌとMB&Fに並ぶ素晴らしい快挙だ。1960年代のスイス天文台コンクールでの好成績と苦労が思い出される。グランドセイコー初のコンプリケーション・ウォッチである「グランドセイコー Kodo」は、ふたつの複雑機構「コンスタントフォース」と「トゥールビヨン」を同軸に一体化して組み合わせることで、高レベルでの安定した精度を実現した世界初の機構を搭載する。これを実現した自社設計・製造の自動巻きムーブメント「キャリバー 9ST1」は、毎秒8振動するテンプに均等なエネルギーを供給するコンスタントフォースと、重力偏差の影響を軽減するトゥールビヨンを同軸化することで、エネルギーロスの低減と安定かつ効率的なエネルギーを供給。この前触れは2020年発表の「T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン」だ。その後340以上のパーツの全面的な見直しで生まれたのが今回の「キャリバー 9ST1」になる。2012年のプロジェクト開始から完成までに実に10年を要した労作だ。ここで改めて注目したいのが、新しいグランドセイコー独自の規格検定基準。これは従来のグランドセイコーおよび業界標準の2倍の検定時間にあたる48時間で6方向の姿勢差、3段階の温度、34日間のテストを実施する。なおモデル名はコンスタントフォースとトゥールビヨンの同軸機構が生み出す音色と表情を人間の心拍に見立てて「Kodo(鼓動)」と命名された。
Ref:SLGT003
ケース径:43.8mm(りゅうず含まず)
ケース厚:12.9mm
ケース素材:プラチナ 950、ブリリアントハードチタン
防水性:日常生活用強化防水(10気圧)
ブレスレット:姫路 黒桟革、プラチナ 950製中留、付け替え用クロコダイルストラップが付属
ムーブメント:手巻き、Cal.9ST1、平均日差+5~-3秒(携帯時の精度目安は+5~-1秒)、約72時間(約3日間)パワーリザーブ(コンスタントフォース機構の作動時間50時間確保)、毎時28,800振動、44石
仕様:時・分表示、コンスタントフォース機構、トゥールビヨン機構、パワーリザーブ表示機能、シースルーケースバック
限定:世界限定20本
価格:44,000,000円(税込)
Horological Revelation Prize
(オロロジカル・レヴェレイション賞)
Sylvain Pinaud(シルヴァン・ピノー)
Origine(オリジン)
スイスはサント・クロワに本拠を構える独立時計師シルヴァン・ピノー氏は、工房を立ち上げた2018年の翌年にはバーゼルワールドで正式デビューを果たしている。その時のモデルはワンプッシュクロノグラフの「Monopusher Chronograph」。今回の受賞モデル「オリジン」は、これまでの時計遺産に対するオマージュとして製作した。スモールセコンドと時分表示計を時計上部にまとめてオフセットした理由は、大型のフリースプラング天輪を明らかにするためと思われる。自ら設計・製造・組み立てを行う証として、時分表示計には名前と共に“HAND MADE”と表記。直径33.8×厚さ6.9mmの手巻きムーブメントは、ハッキング機能を有しスイス製レバー脱進機も自社製だ。シースルーバックから見える地板とブリッジはジャーマンシルバー製。パワーリザーブは55時間。自らの製作品であることを誇るかのようにダイアルには自身の名前と“HAND MADE”が記されている。
Special Jury Prize(審査員特別賞)
François Junod(フランソワ・ジュノー)
孤高のオートマタ製作者であり彫刻家のフランソワ・ジュノーさんは、1959年にスイスのオルゴール生産地で有名なサント・クロワに生まれる。彼の経歴については本企画の2ページ目に書いてあるので、そちらを参照して頂きたい。彼の人生の分岐点は友人の父親が「伝統的なオートマタ製作の最後の巨匠」と言われたミッシェル・ベルトランだったことで、これは運命的な出会いと言ってよいだろう。ローザンヌの美術学校を卒業後、1984年以来ジュノーさんは故郷サント・クロアにひとり籠って、まるで森の妖精のようにひっそりと創作活動を続けている(本人は結構陽気なところもあるのだが)。すべてカムとギアで構成される彼のオートマタは、現代の米ボストン・ダイナミクス社が手掛けるロボットの原型と言っても過言でない。我々日本人にはピンとこないかもしれないが、サント・クロアの大きなアトリエで製作中のオートマタに囲まれて仕事をする彼を見ていると、技術はすべて過去から現在へと1本の線で繋がっていることを感じる。