GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2022「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2022」全記録“金の針”賞+部門賞20賞…拡充するGPHGの傾向と分析 03
第22回GPHG 2022
全受賞ブランドの分析と過去受賞歴_Part.1
“Aiguille d'Or”Grand Prix(“金の針”グランプリ賞)
MB&F(エム・ビー・アンド・エフ)
Legacy Machine Sequential Evo Orange
(レガシー マシン シーケンシャル Evo オレンジ)
左右に独立したふたつのクロノグラフを、中心部に設置されたツインバーター(Twin=ふたつの、Inverter=反転機)により①各独立計測クロノグラフ ②スプリットセコンド ③シーケンシャル(ラップタイム) ④積算“チェスマッチ”モード等、複数のタイミングモードの実行を可能にした完全統合型デュアル・クロノグラフ・システム搭載モデル。2005年のMB&F創設初期からムーブメント開発の良き協力者であった北アイルランド・ベルファストの独立時計設計士、スティーブン・マクドネルによる 自社第20番目のキャリバーを搭載。「FlexRing」衝撃保護システム装備。ステンレススティールより軽量でチタンよりも耐久性のあるジルコニウム製EVOケース。 (https://www.mbandf.com/en/machines/legacy-machines/lmsequential-evo)
ケース径:44.00mm
ケース厚:18.20mm
ケース素材:ジルコニウム
ストラップ:ラバー
防水性:80m(8気圧)
ムーブメント:手巻き、72時間パワーリザーブ、59石、部品数585個、二重香箱、12時にフライング・バランスホイール、完全統合型デュアル・クロノグラフ
仕様:時・分表示(6時)。左側クロノグラフ(ダイアル9時=秒表示、11時=分表示。ケースサイド10時=スタート/ストップボタン、8時=リセットボタン)。右側クロノグラフ(ダイアル3時=秒表示、1時=分表示。ケースサイド2時=スタート/ストップボタン、4時=リセットボタン)。3時リューズ=時刻合わせ、9時=ツインバータープッシャー(両クロノグラフの現在の開始/停止状態を切り替えるバイナリスイッチ)。
参考価格:180,000 USD(USドル。約23,400,000円。1USD=130円で換算)
※2023年2月現在で日本の正規輸入代理店はありません。
Men's Watch Prize(メンズウォッチ賞)
AKRIVIA(アクリヴィア)
Rexhep Rexhepi CHRONOMETRE CONTEMPORAIN II
(レジェップ・レジェピ クロノメトル コンテンポラン II)
ローマ数字のインデックス毎に凹凸に描かれたチャプターリングが特徴の「レジェップ・レジェピ クロノメトル コンテンポラン II」は、最初のGPHGメンズモデル賞受賞の「I」よりムーブメントとケースが進化。手巻き式のCal.RRCC02はふたつの主ゼンマイを固定する左右対称のバレルブリッジを装備し、主ゼンマイのひとつは再設計の天輪、もうひとつはデッドビート・ジャンピングセコンドに動力を供給する。ケースは名匠ジャン-ピエール・ハグマン(Jean-Pierre Hagmann)により再設計され、少し長くなったラグのひとつには「JPH」の刻印が施されている。端正で品格のあるアクリヴィアのような時計が認められるのは、メンズウォッチの現代性を示すひとつの手掛かりとなる。
Ladies' Watch Prize(レディスウォッチ賞)
PARMIGIANI FLEURIER(パルミジャーニ・フルリエ)
Tonda PF Automatic(トンダ PF オートマティック)
小ぶりサイズの時計に注目が集まる中、ケース径36mmで登場した「トンダ PF オートマティック」の最新世代モデル。2017年のGPHG初受賞がクロノグラフウォッチ賞(受賞モデル「トンダ クロノール アニヴェルセール」)とトラベルタイム・ウォッチ賞(受賞モデル「トリック エミスフェール レトログラード」)のダブル受賞、2020年はイノベーション賞(受賞モデル「トンダ ヒジュラ パーペチュアルカレンダー」)という実績から複雑機能系に強いブランドイメージがあるが(確かにそのとおりだが)、今回はパルミジャーニ・フルリエの新しいステージの幕開けを予感させる点で興味深い受賞だ。大きく開かれたダイアルに対しノンデイト+2針のミニマムデザインに間伸びが感じられないのは、36mmという絶妙なサイズバランスが貢献していると思われる。搭載される自動巻きCal.PF770は、このケースサイズに収まるように新たに開発されたムーブメント。レディス部門での受賞だが当モデルはジェンダーレスと解釈して良い。
Men's Complication Watch Prize
(メンズ・コンプリケーションウォッチ賞)
HERMÈS(エルメス)
Arceau Le Temps Voyageur(アルソー ル タン ヴォヤジャー)
2019年発表の独創的なムーンフェイズモデル「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ」。当モデルを発展させたトラベルタイム・ウォッチが「アルソー ル タン ヴォヤジャー」である。41mmのプラチナ製ケース(メンズ)と38mmステンレススティールモデル(ユニセックス)が、共にコンプリケーション賞を受賞。12時位置の表示窓と、幻想的に描かれた世界地図上を回転木馬のように移動する小ディスクによって、ホームタイム(12時)とローカルタイム(小ディスク)を表示。小ディスクに設置された赤色のポインターが現在地の都市名を示す。メンズとレディスの違いはケース径と素材やダイアルの仕上げ等で、ムーブメントは自社製のCal.H1837を共有。同型ムーブメントでメンズ・レディスふたつの複雑時計を同時発表した点が、今回の受賞理由のひとつとかと思われる。外観の差はダイアルの仕様違いぐらいで、ことさらマッシブさやフェミニンな装飾性は各々に見られない。ある意味、サイズ差があるものの両モデルともジェンダーレスなコンプリケーションとも言える。
Ref.W057258WW00
ケース径:41mm
ケース素材:プラチナ(約21.48g)
ストラップ:グラファイトカラーのマットアリゲーター、ブラック ヴォー・バレニア、アルドワーズカラーのヴォー・スウィフト、ビーズブラスト加工を施した、マットブラックDLC仕上げチタン(グレード5、純度88%)製ピンバックル
防水性:3気圧
ムーブメント:自動巻き、Cal.H1837(エルメス・マニュファクチュール)、40時間パワーリザーブ、毎時28,800振動(4Hz)、28石
仕様:時・分表示、都市表示付きデュアルタイムディスプレイ、独自開発モジュール「ル タン ヴォヤジャー(直径26.0mm/厚さ3.7mm)」、アンリ・ドリニー(1978年)デザイン、ビーズブラスト加工を施した黒いマットなDLC仕上げチタン(グレード5、純度88%)製ベゼル、ガルバニック加工を施した文字盤(大陸の名称と輪郭をライトグレーで転写、海洋部分はレーザーで彫った後にラッカー仕上げ、経線と緯線はチャコールグレーで転写)、サンドブラスト加工の可動式カウンター、12時位置にサンバースト仕上げのブラックのホームタイムゾーンと時間表示窓
価格:4,092,000円(税込)
Ladies' Complication Watch Prize
(レディス・コンプリケーションウォッチ賞)
HERMÈS(エルメス)
Arceau Le Temps Voyageur(アルソー ル タン ヴォヤジャー)
フランスのグラフィック・デザイナー、ジェローム・コリヤール(Jérôme Colliard)による幻想的な『乗馬の世界地図』上を回転木馬(小ディスク)が廻り、世界24都市の時間を示すシステム。これはエスメス専用に開発された独自開発モジュール搭載の自動巻きムーブメント、Cal.H1837によるもの。モジュールは厚さわずか4.4mmに収められた122個のパーツから構成される。ここで紹介する38mmのステンレススティール製にはブルー、41mmケースにはグレーのダイアルが用意され、共にガルバニック加工の後に転写やレーザー加工により世界地図の細部を表現する(詳細はスペック表を参照)。アンリ・ドリニーのデザインにより1978年に誕生した「アルソー」は、ワイヤー型ラグという懐中時計時代から続く古典的なデザインを採用しつつも、その上下の長さが異なるという非対称性によりモダンな個性が与えられている。
Ref.W057343WW00
ケース径:38mm
ケース素材:ステンレススティール(316L)
ストラップ:ブルー・サフィールカラーのアリゲーター・リス、マリン・ブルーカラーのヴォー・スウィフト、ステンレススティール(316L)製ピンバックル
防水性:3気圧
ムーブメント:自動巻き、Cal.H1837(エルメス・マニュファクチュール)、40時間パワーリザーブ、毎時28,800振動(4Hz)、28石
仕様:時・分表示、都市表示付きデュアルタイムディスプレイ、独自開発モジュール「ル タン ヴォヤジャー(直径26.0mm/厚さ3.7mm)」、アンリ・ドリニー(1978年)デザイン、ガルバニック加工を施した文字盤(大陸の名称と輪郭を青で転写、海洋部分はレーザーで彫った後にラッカー仕上げ、経線と緯線はブルーで転写)、12時位置にサンバースト仕上げのブルーのホームタイムゾーンと時間表示窓
価格:3,322,000円(税込)
Iconic Watch Prize(アイコニックウォッチ賞)
TAG Heuer(タグ・ホイヤー)
TAG Heuer Monaco Gulf Special Edition
Calibre Heuer 02
(タグ・ホイヤー モナコ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ
ガルフエディション)
2004年の初受賞(「モナコ シックスティ ナイン」でデザインウォッチ賞受賞)から今回で9回目の受賞となったタグ・ホイヤー。これはブルガリ、ヴティライネンと並んで歴代第6位という堂々とした成績だ。受賞モデル「タグ・ホイヤー モナコ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ガルフエディション」は、1969年登場のクロノマティック・ムーブメント搭載の左リューズモデル“モナコ”の歴史を継ぐ正統派モデル。受賞モデルは2007年来のパートナーであるガルフ(Gulf)と共同で再解釈を試み、ダイアルはガルフを象徴するダークブルーをベースに、ターコイズブルーとオレンジのトライプをより現代的に解釈してデザイン(往年の映画ファンにはスティーブ・マックイーン主演の『栄光のル・マン』を想起すること必至)。また12時の“60”はポルシェ ガルフレーシングカーのナンバーへのオマージュを意味する。自社製造ムーブメント、キャリバー ホイヤー02搭載。
Tourbillon Watch Prize(トゥールビヨンウォッチ賞)
H.Moser & Cie(H.モーザー)
Pioneer Cylindrical Tourbillon Skeleton
(パイオニア・シリンドリカル トゥールビヨン スケルトン)
MB&Fとのコラボレーション・モデル「エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン - H.モーザー×MB&F」で、2020年のオーダシティ賞(Audacity=大胆、剛勇)を受賞したH.モーザー。今回、トゥールビヨンウォッチ賞を受賞した“パイオニア”シリーズの当モデルは、2年前の“エンデバー”シリーズの発展型と言える。搭載ムーブメントは2020年モデルのCal.HMC810からCal.HMC811へと進化、またダイアルは前回のアイスブルーフュメから2015年登場のファンキーブルーフュメへ変更。なによりもH.モーザー初のフルスケルトン(時分針の小ディスクは除く)で三次元構造のCal.HMC811を明らかにした点に注目。なお当ムーブメントには自社製のシリンドリカル(cylindrical=円筒型) ヘアスプリングとミニッツ フライング トゥールビヨンが組み込まれている。円筒型ヘアスプリング(マニアックな時計愛好家は“長提灯”略して“提灯”と呼ぶ)は、振り幅の大小に限らず振動期間が一定なので優れた等時性を獲得できる利点がある。H.モーザーではトゥールビヨンと組み合わせることで発生するこの振幅運動を“動く彫刻”“キネティックアート”と呼ぶ。機械構造の深部まで覗き込めるダイナミックな設計や、またドーム形状のダイアル・インデックスの高さにも驚く。H.モーザーの社風(と私は思うが)の、羽目を外しかねない程の気味良い大胆さが表れた時計だ。
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Ref:3811-1200
ケース径:42.80mm
ケース厚:15.30mm(サファイアガラスを除いた厚さ11.7mm)
ケース素材:ステンレススティール
防水性:12気圧
ストラップ:手縫いのブラック アリゲーター、ステンレススティール製フォールディングクラスプ、Moserロゴのエングレービング
ムーブメント:自動巻き、Cal.HMC 811、74時間パワーリザーブ、毎時21,600振動、28石
仕様:時・分表示、フルスケルトン、三次元構造の自社製キャリバー、「M」の刻印で装飾されたねじ込み式リューズ、12時位置にサンバースト仕上げを施したドーム型ファンキーブルー フュメ サブダイアル、スケルトン ダイアル、グロボライトR製インデックス、グロボライトRインサート付きの時針および分針
価格:12,408,000円(税込)
Calendar and Astronomy Watch Prize
(カレンダー&天文時計賞)
KRAYON(クレヨン)
Anywhere Métiers d’Art Azur
(エニィウエア メティエダール アジュール)
2018年「エヴリウエア ホライズン」のイノベーション賞がGPHG初受賞となったクレヨン。これに続き今回は「エニィウエア メティエダール アジュール」がカレンダー&天文時計賞を受賞。共にクレヨンの「ハイパーコンプリケーション」ファミリーに属し、今回の受賞モデルはあらかじめ顧客が選定した地球上のどの位置(場所)でも、“エフェリメス”(ephemeris:天体暦)=日の出と日の入り時刻を表示する複雑機構を搭載する。写真の18Kホワイトゴールドモデルでは、昼夜をスカイゴールドとミッドナイトブルーに色分けした24時式の外周環状リングを、太陽を模したシルバーインジケーターが24時間で一周。6時位置のサブディスクは月と日付表示。つまり顧客が選定した位置(場所)の1年のカレンダーに従って、日の出・日の入り時刻が自動的に表示される。なおモデル名の“Azur”(アジュール)はブルーとシアン(青緑色)の中間色で、仏語で“海または空の色”を意味する。
Mechanical Exception Watch Prize
(メカニカル・エクスセプション賞)
Ferdinand Berthoud(フェルディナント・ベルトゥー)
Chronomètre FB 2RSM.2-1(クロノメトル FB 2RSM.2-1)
ショパールの共同社長カール-フリードリッヒ・ショイフレ氏が2011年から復活計画を進め、2015年末にパリで発表されたフェルディナント・ベルトゥー。翌2016年にはいきなり“金の針”グランプリ賞という快挙を成し遂げる。2019年と2020年は共にクロノメトリーウォッチ賞を受賞し(「Carburised steel regulator」と「FB 2RE.2」)、今回は4度目の受賞だ。18世紀に活躍した時計師・科学者であるフェルディナント・ベルトゥーの誕生地は、奇しくもショパールと同郷のスイス・ニューシャテル州ヴァル・ド・トラヴェール地方。受賞モデル「クロノメトル FB 2RSM.2-1」は、1768年にフェルディナント・ベルトゥーが製造した“Marine Clock No.8(HM8)”からインスピレーションを得たモデル。2時位置の3時間連続表示窓で時、12時には分表示計、そしてセンターはデッドビート・セカンドを分離レイアウトするトゥールビヨンである。
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Ref.FB 2RSM.2-1
ケース径:44.00mm
ケース厚:14.30mm
ケース素材:18Kエシカルローズゴールド(エシカル=生産・加工・流通過程を明確にした金地金を使用すること。フェアマインドゴールドも同じ)
防水性:30m
ムーブメント:手巻き、Cal.FB-T.FC.RSM、直径37.30×厚さ9.89mm、53時間パワーリザーブ、毎時21,600振動(3Hz)、60石、部品数1,169個、トゥールビヨン、COSC認定クロノメーター
仕様:時・分・秒表示、シースルーバック
限定:世界限定20本
参考価格:292,720 USD(USドル。約38,053,600円。1USD=130円で換算)
Chronograph Watch Prize
(クロノグラフウォッチ賞)
Grönefeld(グローネフェルト)
1941 Grönograaf Tantalum(1941 グローノグラフ タンタル)
1912年、オランダ東部のオルデンザールに時計師ヨハン・グローネフェルトによって開設された時計工房が原点。この工房を現代に引き継ぐグローネフェルト家三代目のバート(兄)とティム(弟)の両氏が2008年より発表する複雑機構の時計は、2014年のGPHGで「パララックス・トゥールビヨン」がトゥールビヨンウォッチ賞、2016年には「1941 ルモントワール」がメンズウォッチ賞を受賞し、そして今回グローネフェルト初のクロノグラフ「1941 グローノグラフ タンタル」で3度目の受賞となった。古典的な水平クラッチとコラムホイールを採用し、ダイアルはすべての表示計を独立させたレギュレータータイプのデザインでまとめ、センターのクロノグラフ針はデッドビート運針を行う。なお製品名の“Grönograaf(グローノグラフ)”はオランダ語でクロノグラフの意味、“1941”は彼らの父上であるセーフ氏の誕生年である。