https://www.gphg.org/horlogerie/en/gphg-2021)では授賞式の様子を映像を交えて確認することができる。また当ホームページでは第1回の2001年からのアーカイブも豊富なので、時計愛好家や関係者にとっては格好のテキストになるであろう。一方、本特集ではGPHG 2022の受賞時計ならびにブランド分析をできるだけ詳細に試みたい。" />
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GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2022「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2022」全記録“金の針”賞+部門賞20賞…拡充するGPHGの傾向と分析 02

躍進が続くH.モーザーがトゥールビヨンウォッチ賞で4度目の受賞

GPHGのトロフィーのデザインは、スイスのパスポートや紙幣をデザインした実績を持つジュネーブ出身のグラフィック・デザイナー、ロジャー・ファンド(Roger Pfund)氏によるもの

GPHGのトロフィーのデザインは、スイスのパスポートや紙幣をデザインした実績を持つジュネーブ出身のグラフィック・デザイナー、ロジャー・ファンド(Roger Pfund)氏によるもの。GPHGの象徴ともいえるトロフィーの“手”のデザインは、ミケランジェロがヴァチカン市国のシスティーナ礼拝堂の天井に描いたフレスコ画からインスピレーションを得ており、この著名なフレスコ画では、神がアダムの伸ばした手に触れて彼に生命を与える様が描かれている(GPHGの公式HPより)。

 前ページに続き2022年度GPHGの特徴をまとめると……。


(4) H.モーザー、トゥールビヨンウォッチ賞を受賞

 2002年に“H.Moser & Cie”の商標を国際登録し、併せてシャフハウゼン郊外に「モーザー・シャフハウゼンAG」を設立。こうして2005年にブランド復興を果たしたH.モーザーは、翌2006年のバーゼル初出展時に発表した「パーペチュアル1」が、同年のGPHGコンプリケーデッド・ウォッチ賞(現在の名称はメンズ・コンプリケーションウォッチ賞)をいきなり受賞。これがGPHGの初受賞となった。さらに2009年には独特のグラデーション・グレーダイアルが注目された「シグネチャー・フュメ」を発表するなど、ムーブメントと外装両面で精力的に活動した。

 しかし深刻な経営難に陥った後の2012年、ジュウ渓谷の名門メイラン家率いるMELBホールディングが経営権を引き継ぐ。それからの躍進ぶりには目を見張るものがあり、2015年に「ファンキーブルー」、2016年は舞台をバーゼルからSIHHに移し、当時台頭してきたスマートウォッチの体裁をとりながら実は高品位な手巻きモデルの「スイス アルプ ウォッチ」を発表。翌2017年は“SWISS MADE”非・表示宣言、2018年には可視光の最大99.965%を吸収し、軍事物資にも使用される漆黒物質“ベンタブラック”をダイアルに採用する等、時には“ユーモア”も交えながらも“反骨精神”と“独創的”な開発精神を貫いている。この3つのキイワードがH.モーザーの個性ではないだろうか(と勝手に思いますが)。

 これが世界の時計通の琴線に触れぬ訳がなく、ついに2020年1月発表の「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック」が、実に14年ぶりに同年のGPHGで「クロノグラフウォッチ賞」の受賞となった。さらにこの年はMB&Fとのコラボレーション・モデル「エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー×MB&F」でオーダシティ賞も受賞というダブル受賞を成し遂げる。そしてそのMB&Fが“金の針”賞を受賞した2022年、H.モーザーは「パイオニア・シリンドリカル トゥールビヨン スケルトン」でトゥールビヨンウォッチ賞を受賞。これはメイラン家が経営を引き継いでから10年という節目への祝福となった。ビッグ・メゾンとは一線を画しつつ、柔軟な思考と大胆な行動で斬新なモデルを発表し続けるH.モーザーからは、決して目を離してはならない。

(5)時計の枠を超えたオートマタ創作家「フランソワ・ジュノー」

 今回の審査員特別賞を受賞したフランソワ・ジュノーさんに、名畑編集長が初めて会ったのは2002年のバーゼル・フェア。初代ピエール-ジャケ・ドローが1774年に発表した「画家」「文筆家」「音楽家」のオートマタ3体の内、「画家」を復刻・展示していたジャケ・ドローのブースでのことだった。その復刻された「画家」の製作者がジュノーさんであり、自らオートマタの説明中に遭遇したのである。この出会いの1年後、晴れて我々はサントコアにあるジュノーさんの工房へ向かった。

 以降は名畑編集長がかつて某時計専門誌に書いた文章を参考にして書く。ジュノーさんが初めてオートマタに興味を持ったのは13歳の時。友人の父親であった人物がたまたま「伝統的なオートマタ製作の最後の巨匠」と言われたミッシェル・ベルトラン氏であった。結局、彼はその人物に弟子入りし、またサントコアの技術学校からローザンヌの美術学校(エコール・デ・ボザール)で絵画や彫刻を学ぶ。20歳の頃からオートマタの製作に入り24歳の時に工房を構え、リュージュ・コレクションの修復やブランパンのオートマタの製作を請け負うが、製作技術のほとんどは独学。これは驚くべきことだが、彼によればオートマタの世界は技術まで詳述した参考文献に乏しく、止むを得ずということらしい。彼の秀でた才能は伝統的な作品に留まらずモダンなオートマタも製作することで、1994年には日本の三重県で開催された「国際祝祭博覧会(まつり博・三重'94)」出展のため初来日。またジャケ・ドローの依頼で製作したオートマタを京都嵐山オルゴール博物館に直接、納入に訪れるなど日本とは縁の深い人物である。ご興味のある方はぜひ京都嵐山オルゴール博物館を訪問されてはどうだろう(https://www.orgel-hall.com/)。

 彼の人物伝だけでかなり充実した特集が組めるが(事実、2003年には前述の某時計専門誌で企画されたが)、その後2007年、ザ・アワーグラスがシンガポールで主催した一大時計イベント「TEMPUS(テンパス)」で三度目の再会。我々とは何かと縁のある人物なのでここで少しだけ紙面を割いて紹介したが、より深く探求すべき人物である。

  • 審査員特別賞を受賞したフランソワ・ジュノー氏
  • 審査員特別賞を受賞したフランソワ・ジュノー氏。オルゴール産地で有名なサントコアに住む異才の人であり、これまで我々がバーゼル等で見てきた腕時計内蔵オートマタのみならず、初代ジャケ・ドローが発明・製造した3体のオートマタの内「画家」を復刻した人物。もっと早く受賞して然るべき驚異的な才人だ。

 さらに上記以外の特徴を箇条書きでまとめると……、


●ブルガリ、エルメス、ヴァン クリーフ&アーペルの3ブランドがダブル受賞

 これは2020年の4ブランドに次ぐ多さで、ブルガリはジュエリーウォッチ賞とオーダシティ賞、エルメスはメンズとレディスの両コンプリケーション賞を受賞、そしてヴァン クリーフ&アーペルは本年新設されたメカニカル・クロック賞とイノベーション賞の受賞。特にエルメスは「アルソー ル タン ヴォヤジャー」のメンズ(41mmケース)とレディス(38mmケース)の両モデルがコンプリケーションウォッチ賞を受賞するという、GPHG始まって以来の快挙を成し遂げた。やはりスケール・メリットの大きいグラン・メゾンの複数賞受賞は今後も続くと思われる。


●パルミジャーニ・フルリエが初のレディスウォッチ賞受賞

 当ブランドの受賞歴は2017年(クロノグラフウォッチ賞とトラベルタイム・ウォッチ賞のダブル受賞)、2020年(イノヴェーション賞)に続く4回目。これまでどちらかと言えばメンズや複雑機構に本領を発揮していたと思われるパルミジャーニだけに、今回の「トンダ PF オートマティック」のレディスウォッチ賞はやや意外性のある受賞である。2021年1月にCEOに就任したグイド・テレー二氏の感性の表れだろうか。

●“針の無い”時計=Trilobe(トリローブ)が“小さな針”賞受賞

 2018年にフランスで創設し翌2019年のバーゼルワールドで本格的に活動を開始した、フランス生まれ・スイスメイドの新進時計ブランドが“針の無い時計”、Trilobe(トリローブ)。複数のディスクで時刻を表示するユニークなシステムを考案し、時刻表示はパテント取得済みだ。本格始動の2019年に続き2020年もGPHGにノミネートされた道程を経た上で、今回「Nuit Fantastique Dune Edition」で“小さな針”賞を受賞。初受賞が同賞というのがトリローブに対する時計界の評価、これを機に日本での取扱店が増えることを期待したい。


 個人的な嗜好をかなり反映させた文章となったが、以上で2022年GPHGの分析と傾向解説を終えたい。組織の拡大化と受賞モデルがビッグ・メゾンに集中する傾向は止むを得ないところもあるが、新進気鋭の独立系工房や“埋もれた才人”の発掘にも一層力を入れて欲しいと期待する。




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