High complication watchesハイコンプリケーション“実用化”の謎を追う。 01
Key Person Interview
クリスチャン・セルモニ
ヴァシュロン・コンスタンタン スタイル・アンド・ヘリテージディレクター
実用化するハイコンプリケーションウォッチを象徴する時計が、ヴァシュロン・コンスタンタンの新作「トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー」である。この時計が生まれた理由は、永久カレンダー機構における“カレンダー修正の手間”の解消にあった。
永久カレンダーが逃れられない永遠のジレンマ
7月や8月は31日まで、9月は30日までという「月の大小」だけでなく、閏年の有無まで把握して動く「永久カレンダー機構」は極めて実用的だ。しかしその一方で、時計が停止してしまうとカレンダーの修正は容易ではない。毎日使っていれば時計が止まることはないのだろうが、こういった高級時計のオーナーは、複数の時計を所有しているので必ず使わない日がある。自動巻き式であれば時計をグルグルと回転させてローターを巻き上げるワインダーという機械を使用する方法もあるが、手巻き式の場合は頻繁に自分で巻き上げていないと時計が止まってカレンダーがズレてくる。こうなるとお手上げだ。
永久カレンダー機構はすべて自動巻き式にすればいいのではないかとも思うのだが、複数の機構を組み込む場合は、スペースの関係上、手巻きの方が有利になることは否めない。
かくして“永久カレンダーのずれ問題”が発生するのだが、ここに真摯に立ち向かったのが「ヴァシュロン・コンスタンタン」であった。
「“永久カレンダーを止めない”というのが、開発コンセプトでした。時計が止まればカレンダーがズレてしまい、モデルによっては修正のためにブティックに持ち込まなければいけない場合もある。これは極めて不自由です。そこで考案したのが、パワーリザーブを伸ばして時計を止めない『トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー』です。時計師やエンジニアが時計を設計する上で、最も重要なのは“エネルギーをどうやって使うか”にあります。まずは手巻きやローターによって香箱を巻き上げて“エネルギーを作り”、それを歯車によって“伝達”し、その状況を“長く維持”する必要がある。そのための理想的な構造を導き出したのです」
機能もデザインも操作性も全てが実用的
「トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー」の特徴は、“ツインビート”という言葉に集約される。エネルギー源は一つだが、輪列がふたつあり、ユーザーが二通りの振動数を選べる仕組みになっているのだ。
「時計着用時は、“アクティブモード”を選択します。脱進機は5Hz(毎時36000振動)という高速振動を行い、パワーリザーブは最低4日間です。しかし長期のバカンスなどで時計を使用しない場合は、“スタンバイモード”を選択します。こちらは1.2Hzという超ロービートですが、そのおかげで最低でも65日間も時計が動き続けます。もちろん精度は落ちますが、一日で+7~-8秒程度の誤差ですから、65日間で積算しても、およそ9分程度の誤差にしかならず、カレンダーの修正が不要になるのです」
超ロングパワーリザーブモデルは他にもあるが、持続時間を延ばすためには、香箱の数を増やし、香箱を大きくして、ゼンマイ全体の体積を増やす必要がある。しかしその場合は、時計のサイズは極端に大きくなってしまう。これはヴァシュロン・コンスタンタンの美学に反する。その点、「トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー」に搭載する自社製のCal.3610QPは、直径が32㎜で厚みが6㎜というコンパクトサイズでありながら、“省エネモード”を搭載することで超ロングパワーリザーブを実現させた。単に長時間駆動するだけでなく、日常使いにも対応するサイズ感に時計を収めたことも、ユーザー目線の時計開発の一つといえるだろう。
「アクティブモードの脱進機コンポーネントは伝統的な素材を使っていますが、より繊細なエネルギーマネージメントが必須となるスタンバイモード用の脱進機コンポーネントのために、極めて細いヒゲゼンマイを新開発しました。モードの切り替えは8時位置のプッシュボタンを押すだけなので、とても簡単です」
パーペチュアルカレンダーは複雑な暦を機械で再現するという知的な機構だが、その機構を“永遠”に動かすためには、ユーザー側には、時計を永遠に動かし続けるという負担を強いることになる。「トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー」は、そういった手間も含めて、時計技術を飛躍的に進化させた。それはユーザビリティを意識した、極めて現代的な進化といえるだろう。
>>A.ランゲ&ゾーネ 商品開発責任者 アントニー・デ・ハス インタビュー
取材・文:篠田哲生 / Report&Text:Tetsuo Shinoda
写真:堀内僚太郎 / Photo:Ryotaro Horiuchi
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