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PARMIGIANI FLEURIER時計純粋主義者たちを唸らせた究極のミニマリズム「トンダ PF マイクロローター」と「トリック プティ・セコンド」 02

「男性的エレガンス」を再定義した第四世代「トリック」

2024年6月発表の第四世代「トリック」コレクション中、「トリック クロノグラフ ラトラパンテ」(世界限定30本)と共に発表された「トリック プティ・セコンド」

2024年6月発表の第四世代「トリック」コレクション中、「トリック クロノグラフ ラトラパンテ」(世界限定30本)と共に発表された「トリック プティ・セコンド」。2バリエーションが用意され、写真は18Kホワイトゴールド・ケースにグレーセラドンカラーをダイアルに施したモデル。同年発表の「トンダ」コレクション同様、究極のミニマリズムによって洗練された時計の美を表現する。そのポイントは本文を参照のこと。サンドゴールド色のヌバック加工のアリゲーター・ストラップには、手縫い(punto a mano=プント・ア・マーノ)ステッチが施される。プラチナ950ケース、ケース径:40.6mm、ケース厚:8.8mm、30m防水、グレーセラドン・ダイアル、手巻き、Cal.PF780(自社製)、60時間パワーリザーブ、価格:8,206,000円(税込)。


 1996年5月29日に創立したパルミジャーニ・フルリエ。そのファーストコレクションのひとつが「トリック」である。デザインの特徴は、頭部に段差の付いた古代ギリシアの建築様式のひとつであるドーリア式の柱とドーナッツ形状の円環面(トーラス)といった、幾何学的デザインからインスピレーションを得た設計だ。歴史的に価値のある古典時計の修復を、長年手掛けてきたミシェル・パルミジャーニ氏の知性と知識が「トリック」には反映されていた。まず1996年にファーストモデルが誕生し、その後2017年に第二世代、さらに2019年には第三世代モデルが登場。特に初代から21年ぶりにお披露目された第二世代モデルには、SIHH(当時)の会場でも大変な評判を呼び「これぞパルミジャーニ!」とメディアが大喜びしていたことを覚えている。



 そして第三世代の発表から5年ぶりとなる2024年6月に発表された第四世代の「トリック」は、「トリック プティ・セコンド」(2モデル)と「トリック クロノグラフ ラトラパンテ」(1モデル。世界限定30本)の陣容で、すべてメンズモデル。基調は前ページで紹介した「トンダ PF マイクロローター」と同じく、ミニマリズムによって再定義された「男性的なエレガンスの基準の再定義」。これを箇条書きにまとめると、こうなる。


①ダイアル、時分針、インデックスはゴールド製。ケースはゴールドとプラチナ製に限定。
②現代的な仕様に収斂されたシグネチャーであるローレット加工のベゼル。
③酒石英(ワイン製造時に発酵と共に生成する沈殿物=石英を再結晶させたもの)・粉砕した海塩・銀を脱塩水(イオン交換樹脂や電気透析などの方法で塩類を除去した水)に混ぜた均質な特製ペーストを塗布し、専用ブラシで磨いたダイアル。
④1960年代の様式を着想源とした面取り加工により、周囲の広がりに従ってドーム型に丸味を帯びたダイアル。
⑤ダイアル色はル・コルビュジエのカラーパレットから採用。
⑥ヌバック仕上げのアリゲーターストラップには、ナポリのテイラーが使用する「プント・ア・マーノ(punto a mano=手縫い)」と呼ばれるサルトリアルステッチを採用。
⑦「トリック プティ・セコンド」には18Kローズゴールド製の手巻きムーブメント、Cal.PF780。「トリック クロノグラフ ラトラパンテ」には18Kローズゴールド製の手巻きムーブメント、Cal.PF361を搭載。共に自社設計・製造ムーブメント。


 特にゴールドの使用と手作業を重視した点に目が向くが、個人的には⑤のル・コルビュジエのカラーパレットが気になる。その件をテレーニ氏に尋ねた。


搭載ムーブメントは自動巻きのCal.Oris 733-1(SW200-1ベース)

Toric Petite Seconde
トリック プティ・セコンド

当ページのトップで紹介したモデルの18Kローズゴールドケース・バージョン。サンドゴールド・カラーのダイアルと、グレイセラドン色のヌバック加工のアリゲーター・ストラップに、プラチナ950モデルとの違いを見て取れる。ル・コルビュジエのカラーパレットを参考に、パントーン・チャートから彩色を試みたダイアルカラーが素晴らしい。親から譲り受けた家の外壁や内装のような、暖かみと心地よさを感じる色だ。これは1960年代のヴィンテージを着想の源としていることにも起因する。「PF」に簡略化されたロゴは2021年の「トンダ PF」コレクションから始まったようだ(同年の「トンダグラフ GT」では未だフルネームのロゴを使用している)。二重香箱を搭載する自社製手巻きムーブメントのCal.PF780は、直径28.4×厚さ3.15mm、27石、部品数157個。大きく三分割された18Kローズゴールド製の地板には、コート・ド・フルリエの装飾が施される。金素材の使用と丁寧な仕上げも高級時計の必須条件だ。

Ref:PFC940-2010001-300181
ケース径:40.6mm
ケース厚:8.8mm
ケース素材:18Kローズゴールド(ポリッシュ仕上げ)
防水性:30m
ストラップ:ヌバック加工のアリゲーターレザー、グレイセラドンのハンドスティッチ、18Kローズゴールド製ピンバックル
ムーブメント:手巻き、Cal.PF780(18Kローズゴールド、自社製)、60時間パワーリザーブ、毎時28,800振動(4Hz)、27石
仕様:時・分・秒表示、スモールセコンド、18Kローズゴールド製サンドゴールドカラーダイアル(手作業のグレイン仕上げ)、ローレット加工のベゼル、ケースバックにシリアルナンバーと「PARMIGIANI FLEURIER」刻印
価格:7,095,000円(税込)

トリック クロノグラフ ラトラパンテ

Toric Chronograph Rattrapante
トリック クロノグラフ ラトラパンテ

世界限定30本の18Kローズゴールド・ケースを纏ったスプリットセコンド・クロノグラフ。自社設計・製造の手巻き式インテグレイテッド・スプリットセコンドクロノグラフ・ムーブメント、Cal.PF361を搭載。ナチュラルアンバーのダイアルのグレイン仕上げと、そこにセットされるアップライドの18Kローズゴールド製インデックスは、すべて作業によるもの。42.5mmのケース径いっぱいにレイアウトされる、3つのサブディスクの偏りのないバランスの良さが、ケースとムーブメントサイズとの最適な調和を証明する。

Ref:PFH951-20100011-300181
ケース径:42.5mm
ケース厚:14.4mm
ケース素材:18Kローズゴールド(ポリッシュ仕上げ)
防水性:30m
ストラップ:ヌバック加工のアリゲーターレザー、サンドゴールドのハンドスティッチ、18Kローズゴールド製ピンバックル
ムーブメント:手巻き、Cal.PF361(18Kローズゴールド、自社製)、65時間パワーリザーブ、毎時36,000振動(4Hz)、35石
仕様:時・分・秒表示、スプリットセコンドクロノグラフ、18Kローズゴールド製ナチュラルアンバーカラーダイアル(手作業のグレイン仕上げ)、ローレット加工のベゼル
限定:30本、ケースバックにシリアルナンバーと「Edition limiteeX/30」「PARMIGIANI FLEURIER」「36'000 Alt/h」刻印
価格:21,285,000円(税込)


ル・コルビュジエのカラーパレット

「まず時を経ても色褪せない心地良いものが続く、ということでル・コルビュジエのカラーパレットを選びました。彼は建築家です。建物を作るにあたっては、完成後にたとえ『これは嫌だな』と思っても今さら変えることはできません。家に使用する色というのは心地よく、馴染むということが必要です。今回、我々が使用したパレットは1931年に作られたもので、非常にモダンでありながら時を経ても飽きの来ない、心地よい静寂さに満ちているパステル調のカラーです。『10年経っても20年経っても飽きの来ない色』ということで今回、我々は採り入れました」(註:1931年のパレットでは43色、1959年では20色のカラー・キーボードが作られ、ル・コルビュジエのカラーパレットは全63色で構成されている)


 ちなみにル・コルビュジエ(Le Corbusier)は、1887年10月6日にラ・ショー・ド・フォンに生まれたスイス人である。フランス人と誤解されがちだが彼はれっきとしたスイス人で、時計の文字盤職人を父に、ピアノ教師を母に持ち、本名はシャルル=エドゥアール・ジャヌレ=グリ(Charles-Edouard Jeanneret-Gris)。地元の美術学校に入学し彫金科に入ったエドゥアール・ジャヌレは成績抜群の生徒であった。1997年に現地を取材した私と名畑編集長は、ラ・ショー・ド・フォン図書館に保存されている1902年から1905年にかけての美術学校の年間報告書を見たことがある(もちろん撮影した)。彫金科の彼の成績は1年生から3年生に至るまでいつも主席(1er Prix)で、3年生の時には「ゼリム・ペレ賞」という特別賞も受賞している。

 この時代、彼が製作した懐中時計は1906年にミラノ国際見本市に出品され栄誉賞を受賞する。当時、彼が懐中時計のケースに施した彫金は岩や苔、蜂、木の枝や植物など、彼の生まれ育った土地の自然をモチーフにしていた。私は1997年2月から3月にかけて神奈川県近代美術館で開催された『ル・コルビュジエ展』で、ジャヌレ作の懐中時計のケースを鑑賞したことがある。

 ついでに加えると、ラ・ショー・ド・フォンには初期のル・コルビュジエ作の邸宅が今も数軒残り、実際に人が住んでいる家屋もある。確か駅前には見学コースが描かれた案内板が設置され、日本からも建築学科の学生が時に訪れるようだ。ラ・ショー・ド・フォン時代の彼の代表作が、街の北東部にある『メゾン・ブランシュ』、北側の丘の中腹には1990年代にエベルが所有していた『ヴィラ・テュルク』、そして場所はル・ロックルになるが、ゼニス創設者のファーブル・ジャコ邸が有名だ(丘の中腹に建っており庭から見下ろした下方にはゼニス本社の棟が見える。まさに職住近接)。

 このようにル・コルビュジエと時計は何かと縁が深い。それゆえにテレーニ氏に訪ねた訳だ。彼の話は続く。


「この色味は100年ほど前に作られたにもかかわらず、今見ても新鮮です。ただし、これらル・コルビュジエの色をそのまま今回のモデルに使用している訳ではありません。インスピレーションの源として採用し、我々はさらにアレンジしています。ウォームグレイ・ダイアルのインスピレーションはこれを(とカラーパレットのある部分を指しながら)採用していますが、我々の時計の場合はもう少し色が濃くなっています」


 ル・コルビュジエのカラーパレットを拝見すると、まさに彼が創り上げたカラーは「時に褪せない生活の色」だ。二代、三代と家族が住み続けられる落ち着きの世界である。


「商品開発のミーティングで使った写真も、このように改良したパントーンを見ながら『この色にしよう』『あのような色にしよう』とあれこれ話し合ったのです。最初はパントーン(※註)のカラーチャートを使用しました。ブルーミラノという色をギョーシェに使用するとしても、同じ色でもサンブラストとか表面加工が違うと異なる色味になります。光の反射でも変わりますしね。様々な条件において色は変わるので多岐にわたる調査をします。コンピュータ等を使用して3年間で20色から25色を試しました」(※註:パントーンもしくはパントンは、米ニュージャージー州に本社を置くPantone社が開発した世界共通の色見本帳。印刷物やファッション、製品デザイン、グラフィック等、幅広い分野で色指定に使用されている。以上GoogleのAIによる概要。私も出版社ではデザイナーとの打ち合わせに毎度使用した)


「自然な色、つまりパステルカラーはいわゆる『クワイエット・ラグジュアリー』でも受け入れられていますが、これは偶然かもしれませんね」(パルミジャーニの姿勢は『クワイエット・ラグジュアリー』ではなく『プライベート・ラグジュアリー』であるため、両者は異なるものと区別している。後述)。


 このようにパルミジャーニが目指すところは、静寂と知性が滲み出る真のラグジュアリーであることが、2024年発表のトリック・コレクションからも見て取れた。そこで話の流れは昨今、時計界で言われている「これ見よがし」ではないラグジュアリー=「クワイエット・ラグジュアリー」と、パルミジャーニが1996年の創業時より唱える「プライベート・ラグジュアリー」の違いという、やや難しい話へと進んでいく。




取材・文:田中克幸 / Report&Text:Katsuyuki Tanaka
撮影:江藤義典 / Photo:Yoshinori Eto(TOP PAGE)
協力:パルミジャーニ・フルリエ・ジャパン / Thanks to:Parmigiani Fleurier Japan


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