PARMIGIANI FLEURIER時計純粋主義者たちを唸らせた究極のミニマリズム「トンダ PF マイクロローター」と「トリック プティ・セコンド」 01
「あなたも“デイト表示論争”をされる方のひとりなんですね」

2021年に初登場した「トンダ PF マイクロローター」。モデル名の“tonda”とはイタリア語で“円形”を意味し、これには“完全”、“完璧”というパルミジャーニ・フルリエ(以下パルミジャーニもしくはPFと表記)の時計哲学が込められている。デビュー3年後の2024年4月、その哲学を完全に体現し、パルミジャーニが『至上の純粋主義者』へ向けて発表したのが、写真の「トンダ PF マイクロローター」である。ノー(ノン)デイトモデルという衝撃的な、というよりは時計愛好家が何十年と討論し続けてきた“究極の時計美”を実現した待望のモデルだ。プレスリリースに書かれたグイド・テレーニCEOの言葉によれば、「奥ゆかしさとタイムレスな美しさに対するメゾンのビジョンが、すべての要素に反映されています」。つまり、これこそ究極のミニマリズム。
2000年頃から時計は男性装飾品のメインアイテムに躍り出た。その顕著な例は“ぜんまい”と“デカ厚”にあったと思う。世紀が変わる時までケース径が40mmオーバーの時計と言えば、一部の専用機能に特化したアヴィエーションかダイバーズに限られていたが、“デカ厚ぜんまい”時計が標準化したのである。「さり気ないお洒落」や「年齢や職種に合わせた思慮深さ」よりも「これ見よがし」の自己認証要求性の高いアイテムとなった。この現象は自動車のエンブレムの巨大化や、どデカいブランドロゴを胸にプリントしたTシャツやトレーナーが出回り始めた頃と、おおむね時を同じにする。
この風潮には賛否両論があるが、それはそれで構わないだろう。個人の自由である。しかしそのような風潮の中で、品質の良さと気品の高さにおいては時計界でもトップクラスという呼び声が高い、パルミジャーニ・フルリエ(以下、“パルミジャーニ”もしくは“PF”と表記)は、元来の控えめで物静かな個性ゆえに不当な扱いを受けていたのではないかと、私は長い間感じていた。大声で怒鳴り散らす人物の前では正当な意見が通りにくい会議のごとく、派手な製品展開が繰り広げられる時計界では、理知的なパルミジャーニは損な役割を担っていると思わざるを得ない。
以上の個人的な不満を当ブランドCEOのグイド・テレーニ氏に伝えたところ、
「チャールズ国王のような方もいらっしゃいますよ」(グイド・テレーニ氏。以下、同)
とあっさりと受け流された。確かに英国のチャールズ国王は、皇太子時代よりパルミジャーニの愛用者であることは有名だ。テレーニ氏の言わんとするところは、別に気にするほどのことではないです、分かる人には分かりますから。パルミジャーニとはそういうブランドなのです、ということだと理解した。1996年の創業時より、彼らは極めて控えめな表現でこれを“プライベート・ラグジュアリー”と呼ぶ。昨今の“クワイエット・ラグジュアリー”に先駆けること20年も前から。
確かに見る人はちゃんと見ている。その良い例が2024年4月に発表、秋に発売された「トンダ PF マイクロローター」だ。これは昔気質の時計愛好家には大歓迎されたはずだ。私が「デイト表示を外されたのは英断です」と言うと、フフッと微笑みながら、
「あなたも“デイト表示論争”をされる方のひとりなんですね」
とおっしゃる。これは時計界でおそらく1990年代から長きにわたって繰り広げられる論争で、ダイアルにデイト表示を搭載すると、特にそれが3時や4時30分の位置ではダイアル全体のシンメトリックなエステティック・バランスが崩れるので不要だ、という意見である。かろうじて6時位置(ないし12時位置)ならば許すという一部容認派も存在するが、私も“不要論”に賛成する。大体この表示機能は1950年代頃からの潮流で、当時としては便利だったもののスマートフォンその他で日付などは簡単に分かり、かつ時計が男性の重要な趣味や数少ない装飾品のひとつになった現代では果たして必要だろうか? というのが大論争のテーマである。
この件を書き始めると「私の目の黒い内は絶対にカレンダーは外さない」とおっしゃられた某時計ブランドの大御所など、具体例は枚挙にいとまが無いのでここで止める。ついでに書くとグレッシブの名畑編集長も、1992年頃には上記の不要論を明言していた。
当然、パルミジャーニ側もこの大論争のことは承知しており、2024年4月発表の「トンダ PF マイクロローター」のプレスリリースには「デイトかノーデイトか? 果てしない論争」というタイトルが付けられている。
そこで、プレスリリース内で彼らが表現する「至上の純粋主義者」へ向けて考案された、ノー(ノン)デイトの「トンダ PF マイクロローター」の魅力をあらためて検証したい。
「至上の純粋主義者」へ提示されたミニマリズムの到達点
パンデミックが始まった2020年以降の、主だったパルミジャーニ・フルリエの新作を思い出しながら列記する。
そもそも「トンダ PF マイクロローター」のデビューは2021年の9月になる(トンダ・コレクション自体の始まりは2011年の「トンダ 1950」。なお“1950”とはミシェル・パルミジャーニ氏の誕生年)。ケース径40mm、ケース厚7.8mm、メディカルステンレススティールと環境に配慮した18Kローズゴールドの2タイプのケースが用意され、搭載ムーブメントは自社製の自動巻きCal.PF703。両ケースとも、ダイアルにはシグネチャーモチーフであるバーリーコーン(barleycorn=大麦の穂、粒。古<いにしえ>のイングランドでは長さの基準であり、大麦の粒の長さを1インチとした)・ギョーシェが施され、6時位置には日付表示を装備している。この日付表示を廃した新作が2024年4月登場のモデルだ。ケース径と厚さ、搭載ムーブメントは前モデルと同一。純粋な時計愛好家=「至上の純粋主義者」の期待に応えるべく、不必要なものはすべて排除し本質のみを生かすという純潔でミニマルな美観を継承しつつ、さらに究極の姿を求めた結果、誕生したのがノーデイト・モデルである。前述したように、ダイアルには野に並ぶ大粒の麦の穂をイメージしたバーリーコーンの精密な手彫りギョーシェが施され、またイタリアの古都の名前であり秋色を表すカラーパレットのゴールデン・シエナが配色されている。そのデザインの設計過程を2021年のデビューモデルから尋ねた。
「(2021年モデルでは)まずインデックスを小さくして外側に付け、ロゴを(フルネームではなく)『PF』のみにしました。それで非常にピュアなデザインが出来たと思ったのですが、当時、我々はこの新しいデザインに中々馴染めませんでした。一時ノーデイト表示も考えたのですが、デザインがミニマル化し過ぎることに我々自身が慣れていなかったので、あまりにも先進的過ぎると思い、止めたのです。またロゴを12時に、デイト表示を6時の位置に置くことにより全体のバランスを取りたかったこともあり、ノーデイトは断念しました。
しかし、スタイルというものは次第に馴染んでいくものです。そこで次はマイクロローターを搭載したGMTモデルのノーデイトバージョンを発表しました(「トンダ PF GMT ラトラパンテ」。2022年発表)。この時はGMTということもあり、あえてデイト表示は付けませんでした。そうしたらデイト無しというのも良いなと思ったのです」
2024年6月には36mmケース径の「トンダ PF オートマティック」も発表している。18Kローズゴールドや18Kローズゴールドとステンレススティールのコンビ等の3バリエーションが用意され、「見た目も、評判も良いですよ」とのこと。
「トンダ PF マイクロローター」がミニマリズムの極致を目指す一方で、同じ指向性ながらダイアルのカラー選定にル・コルビジュエのカラーパレットを採用したノーデイトモデル「トリック プティ・セコンド」も、2024年の大きな収穫のひとつ。1996年の初登場から4代目に当たる当モデルのテーマは、“エレガンスの再定義”。当然、話はパルミジャーニのフラッグシップのひとつである「トリック プティ・セコンド」へと繋がっていった。
取材・文:田中克幸 / Report&Text:Katsuyuki Tanaka
撮影:江藤義典 / Photo:Yoshinori Eto(TOP PAGE)
協力:パルミジャーニ・フルリエ・ジャパン / Thanks to:Parmigiani Fleurier Japan
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