CZAPEK新型コロナ禍3年間での大躍進を決めたチャペック最強のゲームチェンジャー 01
2023年開催、第10回「オンリーウォッチ」出品作
「プラス・ヴァンドーム“コンプリシテ”
『いつも心に勇気を』」
2023年6月、チャペックは同年11月5日にジュネーブで開催される第10回「オンリーウォッチ(Only Watch)」に、「プラス・ヴァンドーム“コンプリシテ”『いつも心に勇気を』」(Place Vendôme Complicité “Courage Every Second”)の出品を発表した。当オークションへの出品は、2017年(第7回)の初出品から数えて4回目のことになる。
「オンリーウォッチ」とは、日本でも2015(平成27)年7月より指定難病とされているデュシェンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)研究への寄附を目的として、2005年より始まった慈善オークションのこと。隔年開催の「オンリーウォッチ」では毎回公式のテーマカラーが発表され、出品者(社)は独自の解釈でその色を採り入れた“唯一無二”の作品を創作し出品する。その内容はテーマカラーをダイアル等に反映させたモデルから、まさにユニークピースといえる特殊モデルまで様々で、毎回著名ブランドから新進気鋭の工房まで数多くの出品者(社)が揃う。
全出品作の落札合計金額は、前述のデュシェンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)研究のために寄付される。よって少しでも高く落札されれば、それだけ世界中で苦しむ数十万人の患者とその家族の一助となるわけで、出品者(社)も相当な心構えをもってオークションに挑む。ちなみに第1回から第9回まで計9回のオークション落札合計金額は1億スイスフラン(CHF)=約162億4500万円で、全額がデュシェンヌ型筋ジストロフィー協会へ寄付された(2023年8月5日時点での為替レート、1CHF=162.45円で計算)。出品する側も“商売抜き”の覚悟だ。
再興2年目の2017年に早くも「オンリーウォッチ」に出品
「オンリーウォッチ」への出品には、今回4回目の参加となるチャペックCEO、ザビエル・デ・ロックモーレル氏とその家族、友人、シェアホルダー全員が同じ想いを抱いている。
「デュシェンヌ型筋ジストロフィーは誰でもどこにでも襲い掛かる可能性があります。『いつも心に勇気を』は、私たちの感情を共有し、痛みや困難な時期を経験しているすべての人々にサポートと励ましを提供するための私たちの方法です」(チャペックCEOザビエル・デ・ロックモーレル氏。以下同)
と彼は述べる。
62の出品作が揃った今回のテーマカラーは “過去9回のエディションに選定された9つのカラーに、2023年のテーマであるグリーンを加えた多色構成”となっている。解釈は各出品者(社)に任せられているようで、出品作品を眺めるとグリーンやパープルの単色もあれば複数色の構成もあり、10回目という節目を意識した多彩な内容だ。その中でチャペックは新型自社ムーブメント、オープンワーク、シャンルベ技法を用いたレインボーカラーのような多色構成のエナメルリング・ダイアルという創作品で、オークションに挑戦する。
その出品作品が前述の「プラス・ヴァンドーム“コンプリシテ” 『いつも心に勇気を』」。完成イラストを見ると、まず8時から4時位置に弧を描くリングに目が向く。これはル・ロックルのドンツェ・カドラン社製造によるシャンルベ技法を用いたエナメルダイアル。当社はダイアル製造の匠工房であり、チャペックとは2017年以来のパートナーだ。今回のテーマカラーにおいてチャペックは多色の色彩世界を選択・創造した。そのインスピレーションの元は「オンリーウォッチ」誕生の地、モナコの“レーニエ3世 モナコ コンベンションセンター”(※注1)の屋根である。マルチカラーで構成されるこの屋根は“オプ・アート”(※注2)の先駆者とされるハンガリー系フランス人アーティスト、ヴィクトル・ヴァザルリ(※注3)の手によるもの。
(※注1)レーニエ3世:当オークション創設当初からの強力な後援者である、モナコ公国アルベール2世大公の父君。配偶者は著名なハリウッド女優のグレース・ケリー。
(※注2)オプ・アート(Op Art):斜視の知覚・心理学的なメカニズムに基づいて計算され創られた絵画作品のジャンルのひとつ。広義の“だまし絵”だがエッシャーの具象性を残した絵画とは異なる。正確な表記は「オプティカル・アート(Optical Art)」。ポップアート(Pop Art)と語感が揃うのでオプ・アートの表現が好まれる(Wikipediaより要約)。私見だが“トリックアート”もこの一種かと思われるが、これを立体構造化した数理工学者の杉原厚吉 明治大学教授(2023年8月時点)の作品は少し異なるジャンルのような気もする。いずれにせよ杉原教授やエッシャーも含めて大変楽しいジャンルのアート。
(※注3)ヴィクトル・ヴァザルリ(Victor Vasarely 1906-1997):“オプ・アート”の先駆者。ハンガリー出身。ドイツのバウハウス運動の機能主義と旧ソビエト連邦の構成主義に影響を受け、1930年代から移住先のフランスにおいて独自の幾何学的抽象性を追求した美術作品を制作し続ける。彼の名を知らしめたのは1960年代半ばの『タイム』誌上での紹介(“オプ・アート”の造語も当誌で登場)と、1965年のニューヨーク近代美術館(MoMA)の展覧会「The Responsive Eye(感応するまなざし)」展の開催である(Wikipediaより要約)。
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Xavier de Roquemaurel
ザビエル・デ・ロックモーレル
チャペック社(Czapek & Cie SA)CEO。1969年5月生まれ。チャペック再興の立役者のひとり。元々はラグジュアリー・ビジネスに通じ広いネットワークを持っていたが、2007年~2008年頃にチャペックの時計を探していたハリー・グール氏と知り合い、再興の原動力となる。その資金調達にクラウド・ファウンディングを利用したことは今では伝説か? 前述のキャリアを生かしクロノード社(ムーブメント)やドンツェ・カドラン社(ダイアル)、ポジティブ・コーティング社(コーティング)、モンタンシュトール社(XOスティール)等との緊密な水平統合システムを構築。人当たりの良い陽気な好人物だが、相当な戦略・戦術家とお見受けした。
著名な独立時計師との初コラボレーション
次にメカニズムだが、特徴は12時位置に見える大型のディファレンシャル・ギアと、4-5時と7-8時に備えられたデュアル(ダブル)・エスケープメントだ(当ページ冒頭のイラスト参照)。ダイアル側に脱進機等のメカニズムを開示する方法は、すでに2021年の「アンタークティック ラトラパント シルバー・グレイ」(クロノード社との共同開発の自社ムーブメント、自動巻きCal.SXH6搭載。当記事3ページ目《3》で紹介)で試みているが、今回の自社ムーブメントのCal.SXH8は手巻き式。そして共同開発のパートナーは、なんと独立時計師のベルンハルト・レーデラー(Bernhard Lederer)氏である。彼は著名な時計師で、2021年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)では「セントラル・インパルス・クロノメーター」がイノベーション賞を受賞している。
ところでデ・ロックモーレル氏とレーデラー氏が今回の出品作を共同制作するきっかけは、実に意外なところだった。2022年11月1日にお会いした時、デ・ロックモーレル氏はこう述べていた。
「知り合いにニューシャテル在住のアカデミー(AHCI=Académie Horlogère Des Créateurs Indépendants:独立時計創作家協会)メンバーがいてね。今、デュアル・エスケープメントを製作中です。来年(2023年)には出来るかな」
この時計師がレーデラー氏のことで、“今、製作中”というのは今回のCal.SXH8のこと。両者が知り合ったきっかけはお互いのお子さんたち。つまりレーデラー氏のお嬢さんとデ・ロックモーレル氏の息子さんは、同じニューシャテルの学校に通う同級生で「あなたのお父さんは何をしているの?」「時計会社、君ん家は?」「時計を作っているわ」。という会話がなされたかどうかは分からないが、お互いの子供たちを通じてデ・ロックモーレル氏とレーデラー氏は知り合い、じゃあいっしょに何か作ろうか、ということになったそうである。
なお、今回初となったチャペックとベルンハルト・レーデラー氏の共作による「オンリーウォッチ」出品作だが、一般向けにアレンジされた「プラス・ヴァンドーム コンプリシテ(PLACE VENDÔME COMPLICITÉ)」2モデル(「ハーモニー・ブルー」と「スターダスト」)が、2023年8月29日から開催の「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ」において、各50本の世界限定で発表された。
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Place Vendôme Complicité Stardust
プラス・ヴァンドーム コンプリシテ スターダスト
第10回「オンリーウォッチ」出品作の一般用アレンジモデルのひとつで、こちらは18Kホワイトゴールドケース仕様。8-4時のアワーリングやメインプレートは、ケース素材の色味に合わせて淡いグレーに統一。搭載ムーブメントのCal.SXH8等、メカニズムのスペックは18Kローズゴールドケースの“ハーモニー・ブルー”と同一。いずれもサファイアクリスタルガラスを通して、12時位置のディファレンシャル・ギアを中心に左右下方向へ連結する輪列や、4-5時と7-8時位置のデュアル(ダブル)エスケープメントを鑑賞できる。これが“垂直方向における対称性の美学”というチャペックの時計製造哲学である。世界限定50本。
ケース径:41.8mm
ケース厚:13.3mm
ケース素材:18Kホワイトゴールド
防水性:5気圧(50m)
ストラップ:アリゲーターストラップ、18Kホワイトゴールド製のフォールディングバックル付き
ムーブメント:手巻き、Cal.SXH8、毎時21,600振動(3Hz)、約72時間パワーリザーブ、ダブル・エスケープメント、ディファレンシャル・ギア
仕様:時・分・秒表示、パワーリザーブ計、オープンワーク・ダイアル
限定:世界限定50本
予価:19,800,000円(税込)
また、「プラス・ヴァンドーム“コンプリシテ”『いつも心に勇気を』」発表3カ月前の3月には、「アンタークティック レヴェラシオン(Antartique Révélation)」も先行発表されている。これは2020年発表の初の自社ムーブメントである、マイクロローター採用の自動巻きCal.SXH5を、ダイアル側から見られるように再構築したCal.SXH7を搭載。つまり2023年になってからCal.SXH7とCal.SXH8のふたつの自社ムーブメントを立て続けに発表しており、チャペックの快進撃ぶりがうかがえる。ファーストコレクション「ケ・デ・ベルグ」の発表が2015年11月のことなので、その成長速度に驚く。が、この発火点は2020年、つまり新型コロナの年だとデ・ロックモーレル氏は言う。では2020年に何があったのか?
>>チャペックのゲームチェンジャーとなった2020年登場の「アンタークティック」とCal.SXH5
※2023年の新作に関しては日本入荷が2025年になります。その時の為替によって大きく変動する場合があります。
取材・文:田中克幸 / Report & Text:Katsuyuki Tanaka
写真:高橋敬大 / Photos:Keita Takahashi
協力:ノーブルスタイリング / Thanks to:Noble Styling
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