Romain Gauthier徹底した“磨き仕上げ”を高級機械式時計の必須条件とするローマン・ゴティエの信念
エンジニア出身だからこそ着目した
部品の徹底した磨き技術の重要性
あれは2007年4月のバーゼルワールドでのこと。
ホール1.0を歩いた先にあるエスカレーターで中二階に上がり、奥に隣接するホールの回廊を抜けたところに、当時はAHCI(Académie Horlogère Des Créateurs Indépendants/独立時計創作家協会、通称アカデミー)の開放的な展示ブースがあった。
その年アカデミーの隣にはフィリップ・デュフォー氏が独立ブースを構えており、私と現在Gressive編集長の名畑が恒例の挨拶に訪れたところ、彼はこう言った。
「実は会わせたい人がいるのだけど、いいかね?」
これがローマン・ゴティエ(Romain Gauthier)さんとの最初の出会いである。
少しはにかみながら、彼は朴訥と自分の来歴を話してくれた。
ローマン・ゴティエさんは1975年、複雑時計の揺りかごと呼ばれるスイス・ジュウ渓谷のル・サンティエの出身。
驚くべきことに彼は時計師ではなく、精密機械のエンジニアであった。技術学校卒業後の1998年、フランソワ・ゴレイという高級時計の歯車製作会社にプログラマー兼オペレーターとして勤務。やがて時計への想いの高まりは、単なる時計製作のみならず自身のブランドを立ち上げ、継続させるという壮大な計画へと膨らみ始める。それは普通の時計ではなく、希少性の高い高級時計を意味した。
そこで彼は、2年間ビジネススクールに学びMBAを取得するという意表を突く行動に出る(時計学校ではないのですね)。卒業論文のテーマは自身のブランド事業計画。この頃、彼はふたつの幸運を手にする。ひとつはフランソワ・ゴレイ社の上司が彼の志に賛同し、終業後に工場内の機械や道具を自由に使用させてくれたこと。もうひとつはデュフォー氏を訪問し、彼から磨き仕上げの技術を学んだことである。
これは設計やパーツの製造技術のみならず、パーツの磨きの精度の高さが高級時計を定義する重要な要素であることに、ゴティエさんが気付いていたことを意味する。なぜならデュフォー氏も同じ考えの持ち主だからだ。
2005年にゴティエさんは郷里ル・サンティエに自身の会社を設立。自ら設計したムーブメントCal.HM2206の製造・組み立てを、雇用したひとりの時計師と共に行い、こうして最初のモデル「プレステージHM」が完成、2007年のバーゼルワールドで発表となる。幸運にも、我々はその発表のステージに立ち会うことができたわけだ。
取材・文:田中克幸 / Report&Text:Katsuyuki Tanaka
写真(東京・マスタークラス):吉江正倫 / Photos(Master Class in Tokyo):Masanori Yoshie
協力:スイス プライム ブランズ株式会社 / Special thanks to SwissPrimeBrands
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