SPEAKE-MARIN一流アンティーク時計店で腕を磨いたロンドンの日々
一流アンティーク時計店で
腕を磨いたロンドンの日々
名畑:ソムロ・アンティークスはピカデリー・アーケードにある時計店ですね。ここには美しい時計がそろっていて、90年代半ば、ロンドン取材の際に訪ねました。そこにはピーターさんが修復した時計があったんですね。
スピーク・マリン:私はこの店に珍しく6年間も勤めましたが、ここで学んだことは今も非常に役立っています。
名畑:その6年でピーターさんが修復工房の体制を整えたと聞きましたが、これが現在の仕事に役立っているわけですね。
スピーク・マリン:そうです。入社当時、時計師は私ひとりで、扱う時計も20~30個。ところが6年で多くの部品サプライヤーとネットワークを構築し、工房もふたつに増え、店には約700個ものコレクションを展示するまでになりました。ここから自分も学び、後輩の時計師を育成することも学びました。
名畑:実に良い経験だったんですね。
スピーク・マリン:時計師の仕事は、作業だけ見ると一平米ほどのスペースに集中していますが、実は無限の広がりがあるのです。私はソムロで6年間働いていた際、世界中のセレブリティや政治家、有名人と接することができました。
ある時、映画の『スターウォーズ』でレイア姫を演じたキャリー・フィッシャーさんがやってきて、旦那さんに時計を買っていったのです。それがきっかけで彼女と親しくなり、多くの映画関係者を紹介してくれて、シルベスター・スタローンさんや有名な映画監督も来店しました。これにより人と人とのつながりを体験できたのは、私の人生の中でも輝かしい経験ですね。
名畑:その後、再びスイスに渡り複雑時計開発工房ルノー・エ・パピに入社するわけですが、これはどんな経緯で?
スピーク・マリン:ソムロで6年間働き、そろそろ違うことをしたいなと思っていた時、自分の中に“世界を旅したい”という思いがあることに気付きました。そこで休みをとってスイスのワイン祭りにでかけて古い友人に会い、“そろそろ仕事を変えようと思う”と話したのです。すると帰国の一週間後、その友人から電話で“ルノー・エ・パピへ入らないか?”と提案されたのです。
時計への知識欲に火が付いた
ルノー・エ・パピ時代
名畑:ルノー・エ・パピでは、どんな仕事を?
スピーク・マリン:ルノー・エ・パピには4年間在籍しましたが、いろいろなセクションを担当しました。最初はトゥールビヨン。次がグランソヌリ、その次は後進の時計師のトレーニング。最後は製品開発のマネージメントもやりました。
ただロンドン時代は自分がリーダーでチームを率いましたが、パピでは、ひとりの時計師として働いたことで、より深く時計を知りたいという思いに火がついたのです。
名畑:そして、ついに独立するわけですが、今、スイスの大メゾンに勤める時計師さんに、“独立時計師になりたいか?”と聞いても、多くは“そんな気はない”と答えますね。ピーターさんは、どうしてそれを選んだのですか?
スピーク・マリン:確かに独り立ちするのは大変だとわかっていましたが、私にとっては勉強し続けることが不可欠で、時計を作りたいという欲求を高め、自分の想像力と創造性、芸術性をさらに深めていきたかったのです。
しかも単に時計を作って、お金を稼ぐだけでなく、自分の人生にとって最大の幸福を考えた時、それは自分の作った時計で世の中を人を喜ばせることだと気付いたのです。
名畑:その思いが集約されたのが、ルノー・エ・パピ在籍時に作り始めた『ファウンデーション・ウォッチ』ですね。
スピーク・マリン:これを作り始めたのは1998年。2000年に完成し、同時にルノー・エ・パピを退職しました。
名畑:ピーターさんの時計を見ると印象的な形をしていて、古典時計がベースだとわかります。このファウンデーション・ウォッチには、現在の製品に展開される要素がすべて含まれていますね。
スピーク・マリン:多くの時計師にとっての夢は、自分の時計を作ること。しかし、それを実行する人は少ないですね。
名畑:このファウンデーション・ウォッチを継承し、今のコレクションがあるわけですね。その現在のコレクションで“ここを見て欲しい”という部分は?
スピーク・マリン:すべてです! 私はこれまで1000本以上の時計を作ってきましたし、100本ちょっとのユニークピース(単品製作モデル)もあります。それらの中にはシンプルなモデルもあれば、少しだけ手を加えて複雑にしたモデルや、イチからすべて作り上げたまったくのオリジナル・モデルもあります。
それらの中の代表作が Jクラス・ コレクションの『サーペント・カレンダー』です。これは中央のカーブした針で日付を表示します。これとは違う方向で個性的なのが『ヴェルシダ』で、これは1本の針だけで時刻を示すミニマルな表示が特徴です。
取材・文:名畑政治 / Report&Text:Masaharu Nabata
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