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GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÉVE 2020混乱と混迷の世界状況下で開催 20年目のターニング・ポイントを迎えた「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2020」 02

部門賞では4ブランドがダブル受賞
これはGPHG20年の歴史では初の出来事

「ブルガリ アルミニウム クロノグラフ」が“アイコニックウォッチ賞”に輝いたブルガリ。この栄誉に溢れんばかりの笑みで喜びを表現するのは、ブルガリ・グループCEOのジャン-クリストフ・ババン氏

「ブルガリ アルミニウム クロノグラフ」が“アイコニックウォッチ賞”に輝いたブルガリ。この栄誉に溢れんばかりの笑みで喜びを表現するのは、ブルガリ・グループCEOのジャン-クリストフ・ババン氏。ブルガリは2017年と2019年に各々ダブル受賞しており、さらに今回の受賞によりマニュファクチュールの実力を証明した。

全世界的な災禍で改革が急務の時計界
1年後のGPHGで明るい結果を報告できるか!?

 2020年のGPHGで特筆すべきは、部門賞で4ブランドもダブル受賞したこと。20年にわたるGPHGの歴史では初の出来事で、その4ブランドと受賞部門ならびに受賞モデルを以下に記す。


ボヴェのダブル受賞は、2001年のオーナー就任以来、機械式時計の工芸価値を追求し続けるパスカル・ラフィ氏の努力の結晶だ

2018年の初受賞がいきなり“金の針”大賞という、大快挙を成し遂げたボヴェ(受賞モデルは「リサイタル 22 グランドリサイタル」)。わずか2年後の本年“レディスウォッチ賞”(「ミス・オードリー」/写真上)と、“メカニカル・エクスセプション賞”(「ボヴェ 1822」/写真下)のダブル受賞は、2001年のオーナー就任以来、機械式時計の工芸価値を追求し続けるパスカル・ラフィ氏の努力の結晶だ。

(1)ボヴェ(BOVET)/
“レディスウォッチ賞(LADIES’ WATCH PRIZE)”に「ミス・オードリー(Miss Audrey)」。
“メカニカル・エクスセプション賞(MECHANICAL EXCEPTION WATCH PRIZE)”で「ボヴェ 1822(Bovet 1822)」。

(2)H.モーザー(H.Moser & Cie.)/
“クロノグラフウォッチ賞(CHRONOGRAPH WATCH PRIZE)”に「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック(Streamliner Flyback Chronograph Automatic)」。
“オーダシティ賞(AUDACITY PRIZE)”では「エンデバー・シリンドリカル トゥールビヨン H.モーザー× MB&F(Endeavour Cylindrical Tourbillon H. Moser X MB&F)。(※“Audacity”とは“大胆、勇猛果敢”の意)

(3)ブライトリング(BREITLING)/
“ダイバーズウォッチ賞(DIVER’S WATCH PRIZE)”が「スーパーオーシャン オートマチック 48 ブティックエディション(Superocean Automatic 48 Boutique Edition)」。
“小さな金の針(PETITE AIGUILL PRIZE)” 賞に「スーパーオーシャン ヘリテージ ’57 リミテッドエディション II(Superocean Heritage '57 Limited Edition II)」。

(4)ヴァン クリーフ&アーペル/
“アーティスティック・クラフト・ウォッチ賞(ARTISTIC CRAFTS WATCH PRIZE)”に「レディ アーペル ソレイユ フェリーク(Lady Arpels Soleil Feerique)」。
“ジュエリーウォッチ賞(JEWELLERY WATCH PRIZE)”で「フリヴォル シークレット ウォッチ(Frivole Secrete watch)」。


2013年にH.モーザーCEO就任のエドゥアルド・メイラン氏

2006年の“複雑時計賞”(モーザー パーペチュアル1)が初受賞のH.モーザー。2013年にCEO就任のエドゥアルド・メイラン氏が唱える“Very Rare=超稀少”性を追求する時計哲学が、今回のダブル受賞をもたらした(写真は“クロノグラフウォッチ賞”受賞の「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック」)。今回の受賞を「私たちが正しい方向に進んでいることを示しています」とメイラン氏は確信。

ヴァン クリーフ&アーペルのEric de Rocquigny氏

もはやGPHGの常連ブランドのひとつと言えるヴァン クリーフ&アーペルの受賞は“ジュエリーウォッチ賞”(「フリヴォル シークレット ウォッチ」/写真右上)と“アーティスティック・クラフト・ウォッチ賞”(「レディ アーペル ソレイユ フェリーク」/写真左下)。受賞は2018年の“レディス・コンプリケーションウォッチ賞”以来2年ぶりのこと。トロフィーを受け取るのはEric de Rocquigny氏。


 特にボヴェ、H.モーザー、ブライトリングの3ブランドに共通して言えるのは、いずれも歴史ある時計会社ながら、この20年間で代表者(オーナーやCEO)が交代しブランドの再構築に成功していることだ。1822年創業のボヴェは2001年にパスカル・ラフィ氏のオーナー就任後、自社製造体制を再構築し、メカニズムと工芸芸術の融合に成功している。次に1828年、ロシア・サンクトペテルブルグで創立したH.モーザーは、2013年に時計界の名門メイラン家のエドゥアルド・メイラン氏がCEOに就任、ムーブメントの改良作業を始め意欲的なコレクションを毎年発表し続ける。また1884年創業のブライトリングは、ふたつのオーナーファミリーを経た後の2017年に、輝かしいキャリアを持つジョージ・カーン氏がCEOに就任。ブライトリングの遺産を継承しつつ、それ以前には目の届かなかった分野の強化という、伝統と革新を文字どおり実践中だ。彼らに共通するのは、前例主義に陥らず絶えず時代の変化、刻々と変わる外的環境に適応する方策を取っていることである。


5部門でノミネートされたブライトリングのカーン氏

5部門でノミネートされたブライトリングは、“ダイバーズウォッチ賞”(「スーパーオーシャン オートマチック 48 ブティックエディション」)と“小さな金の針”賞(「スーパーオーシャン ヘリテージ ’57 リミテッドエディション II」/写真)を受賞。意外なことだがブライトリングの受賞は今回が初。初受賞がダブル受賞とは、当ブランドの実力なら当然のことだ。「GPHGからの評価は、我々が正しい道を歩んできたことの証明です」とは受賞スピーチでのカーン氏の言葉。

 新型コロナウイルスが時計界に及ぼす影響が、具体的な数字となって判明するのは2021年である。今回の深刻な危機に対抗するためには、従来の固定観念や前例を踏襲した方法ではなく、新しい価値を生み出すことにある。おそらく2021年のGPHGで受賞の栄誉に輝くのは、今回の劇的な変化への対応が功を奏した成功者たちになるであろう。




取材・文:田中克幸 /Report&Text:Katsuyuki Tanaka


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