Gressive Premium次なるステップへの道は見えたか? 2021年のイベントと新作を総括する / 田中克幸
歴史遺産時計の進化や新解釈など
アグレッシブな姿勢を貫く老舗を評価
2021年の本年もSS製ラグジュラリー・スポーツ(スポーティ)ウォッチの勢いは止まるところを知らなかった。事の始まりは来年、誕生50周年を迎えるオーデマ ピゲの『ロイヤル オーク』にある。同モデルは故ジェラルド・ジェンタのデザインによるもので、当時のパテック フィリップ『ノーチラス』やIWC『インヂュニア』等の綺羅星を生み出した彼の才能にあらためて感心する。時計界にジェンタ再降臨の感があり、来年も彼の魔法が解けることはないだろう。
私見100%の本年のベストモデル3を挙げると、第1位はオメガの『スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル マスター クロノメーター』。手巻き式ムーブメントでマスター クロノメーターを取得した点を評価。高性能なエンジンを搭載したヴィンテージカーの趣である。第2位はチューダーの『ブラックベイ セラミック』。前述の『マスター クロノメーター』はオメガ独壇場の勢いがあったが、それを打破した突破力が素晴らしい。第3位はH.モーザーの『ストリームライナー・パーペチュアルカレンダー』。エドゥアルド・メイラン氏が指揮を執り始めて以降、H.モーザーは時計界で最も油断のならない刺激的な存在だ。また番外編にオメガの『シーマスター ダイバー 300M コーアクシャル マスター クロノメーター 42MM 007エディション』を無理推しする。2019年12月発表モデルだが映画『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開が本年に延期された点と、ピアース・ブロスナン時代を含めたボンドウォッチ中、最高傑作品である点、さらに007シリーズでは記念碑的なモデルになったからだ(映画をご覧になられた方にはご理解頂けると思う)。
2年間続いたオンラインによる新作発表イベントは、デジタルではやはり現場の“熱気・熱量”は感じ得ないしリポートにも限界がある事を痛感。また、わずか30~40分のデジタルイベントの出来・不出来の差がはっきりとブランドによって表れた。これはひとつの“ライブレポート”もしくは“映像作品”と意識して、構成・台本・演出・カメラワークに努めたブランドが勝利。この点では1月のLVMHグループには入念な準備が感じられたし、メイランCEOが自らリアルタイム工場見学会を引率したH.モーザーも楽しかった。一方リアル展示会は11月の東京・竹芝でクルーズボートでの新作発表会を開催したチューダーも、オンライン発表会ばかりで停滞しがちな我々のムードを活性化してくれた。リアルとデジタル併用の発表会が加速する中、今後はデジタルにおける構成・演出力も問われるだろう。