Lang & Heyne個人時計工房から時計会社へ……第二創業期を迎えたラング&ハイネの現在 03
顧客の細かな要望に応え、対話から生まれる
ビスポーク時計
ラング&ハイネでは針やダイアル、ケースといったパーツが顧客の好みで組み合わせることが可能だ。2022年度版のカタログによればケース、針の形状、ストラップの色、留め具の種類等が顧客の選択肢に入っている。ケースは18Kローズゴールド、18Kホワイトゴールドまたはプラチナ950、一部にはステンレススティールの4種類が揃う。ダイアルはマット加工シルバー、ホワイトエナメル加工、ブラック・ガルバニック加工の3種類、針は青焼きスティール製スペード型のほか素材は異なるがカテドラル型、ランセット型、ルイ15世型の4種類が揃う。
先ほどシュナイダー氏は、マルコ・ラング氏時代のキャリバーの改良について言及したが、その改良点を聞いてみた。
「『アントン』搭載のキャリバーIX(註:“9”。フライングトゥールビヨン・ムーブメント)はアンクルを新造しましたが、その改良点は非常に細かな点に及びました。寸法や製造時の技術的なステップの最適化を行いました。このキャリバーIXは非常に新しいムーブメントで、過去のものとは関係のない機械です」(J.シュナイダー氏)
キャリバーIXのことを話すシュナイダー氏の様子から、どうやら彼はレクタンギュラー型ムーブメントにラング&ハイネの新しい方向性を見出しているように思えた。だが一方でシュナイダー氏は、時計の全作動時間にわたりテンプの振り幅を一定に保つ定力機構=セコンド・ルモントワール搭載の「キャリバーV」の製造にも携わっている。ラング&ハイネの時計はすべてシースルーバック仕様なので、相当な神経を使っての作業であると彼は述べる。
現在、ラング&ハイネ社製ムーブメントの自社製品比率は97%、一方の外装部ではケース等は外注だが前述の針やダイアルの“エナメル・シャンルべ”は自社製作だ。
2022年度版カタログで現行コレクションと自社ムーブメントを見ると、コレクションは「ゲオルグ(GEORG)」「アントン(ANTON)」「フリードリッヒII世(FRIEDRICH II)」「フリードリッヒIII世(FRIEDRICH III)」「フリードリッヒ・アウグスト1世(FRIEDRICH AUGUST I)」「ヨハン(JOHANN)」「アルベルト(ALBERT)」「モーリッツ(MORITZ)」の計8コレクション。
一方の搭載キャリバーは「キャリバーI」(中2針+スモールセコンド)、「キャリバーIII」(フルカレンダー+ムーンフェイズ+偏角表示)、「キャリバーIV」(プッシャー・クロノグラフ)、「キャリバーV」(セコンド・ルモントワール)、「キャリバーVI」(中2針+スモールセコンド)、「キャリバーVII」(記念日、年齢計算)、「キャリバーVIII」(中2針+スモールセコンド、レクタンギュラー型)、「キャリバーIX」(フライング・トゥールビヨン、レクタンギュラー型)、「キャリバー33.2」(中3針、「ヘクトール」搭載)の計9ムーブメント。
「キャリバーII」は元より欠番だから上記9つのムーブメントにはカウントせず、「キャリバーVII」は「アウグストゥス1世」搭載用の特別ムーブメントなので1年に1モデルといった頻度、またシュナイダー氏の話の中にも登場したルモントワール機構搭載の「キャリバーV」は「コンラート」「ハインリッヒ」用で、現在は受注を控えているとのこと(カタログ中のムーブメント・リストのページには掲載されているが、上記の理由で搭載モデルは掲載されていない)。よって世界の愛好家は、実質上「キャリバーV」と「キャリバーVII」を除いた7つのムーブメントを搭載する8コレクションから選択することが可能だ(2022年12月現在)。
少数生産の高品質かつ希少性も高い自社製品に対し、ラング&ハイネではシュナイダー氏が全個体の最終点検を行う。彼の目に触れないで工房から出荷される時計はひとつもない、というのが彼らの品質管理の基準だ。また、顧客ひとりひとりに対して個別にシュナイダー氏自らが時計の説明を行っている。この点をセールス・ディレクターのギュルシェン・テクさんは強調する。
「それは我々の販売プロセスのひとつで、ほぼ毎月アメリカやアジアなどからお客さまが工房を訪ねてくださっています。完成した時計をお客さまが工房までいらして直接受け取られる場合は、ガイドを付けて工房をご案内します。お客さまにとっては特別な体験になるでしょう。
ダイアルのオーダーの際は、お客さまに彫金作業状況をお知らせすることもできます。小さな工房だからこそこのようなサービスができるのです。中には特別仕様を望む方もいらっしゃいますが、我々は在庫というものを一切持ちませんので、お客さまからの注文のあった段階でお客さまとの共同作業で作り上げます。ダイアルのデザインも共同作業ができます。ただ要望をすべて受け入れることはできません、あくまでも我々の工房のできる範囲内で、ということですが」(セールス・ディレクターのギュルシェン・テクさん)
今、我々はラング&ハイネというひとつの個人時計工房が、時計会社Lang & Heyne GmbH & Co.KGへと移り変わる過程を目撃している。会社の有り様が変わったすぐ後に発表された「ヘクトール」への時計愛好家の反応や、希少性を維持しつつ時間をかけながらも高品質を維持する現状を聞くと2019年以後の舵取りは順調そうに見える。なによりもUWD(ドレスデン時計製造工場)やテンプス・アルテ グループの体制、そして真剣に応援しているブルーナー氏の言葉の端々に、なにやら「ザクセン・ドイツ時計」の意気込みの片鱗が伺われて好ましく感じられた。乞うご期待である。
(※参考資料:『webChronos』『WatchLIFENEWS』『TIME SCENE Vol.11』、Marco Lang公式HP)
協力:ドイツ時計株式会社 / Thanks to:Thanks to:Deutsche Uhren
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