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Lang & Heyne個人時計工房から時計会社へ……第二創業期を迎えたラング&ハイネの現在 02

時計製造の“工業化”に努め安定した生産力を実現

「ヘクトール」はラング&ハイネにひとつの転換期をもたらしたエポックメイキング・モデルであったことを熱心に語るイェンス・シュナイダー氏(右)とギズベルト・L.ブルーナー氏(左)

「ヘクトール」はラング&ハイネにひとつの転換期をもたらしたエポックメイキング・モデルであったことを熱心に語るイェンス・シュナイダー氏(右)とギズベルト・L.ブルーナー氏(左)。すでに完売したモデルだが日本の時計ファン、特にドイツ時計愛好家には次回作の「ヘクトールII」の登場が待たれる。


 ラング&ハイネの工房が組み入れられたUWD工場で誕生したのが、冒頭で紹介した2021年10月3日発表の「ヘクトール(HEKTOR)」である(※時計の詳細は前ページに掲載)。


「『ヘクトール』は、これまでのラング&ハイネのコレクションとは趣を異にする時計ですが、製造面では特に変更されたことはありません。しかし結局、マルコ・ラング氏は会社を去ることになりました(註:この件は2019年のバーゼルワールドで、イェンス・シュナイダー氏の開発責任者・部長就任と共に発表された)。


 この時我々が考えたのは、手作りの部分は大切にしながらも将来にわたって技術的に安定性があり、経営的にも成功するという方向性です。マルコ・ラング氏はクリエイティブな時計技術者でしたので、短期間に多くのキャリバーを作りました(註:マルコ・ラング氏の公式HPによれば、彼はラング&ハイネ在籍中の18年間で、9つのムーブメントと8つの腕時計を開発・設計した)。ただ、彼の創り出したキャリバーは技術的にも経営的にも安定したものばかりとは言えなかったのです。そこで彼の作ったキャリバーの中で破棄するものもあり、他は技術的にも品質的にも安定性を高める作業を我々は行いました。特に(改良作業を進めたのは)『フリードリッヒ』『ゲオルグ』などです」(J.シュナイダー氏)


 シュナイダー氏の仕事、つまり2019年以降のラング&ハイネの方針はムーブメントの“工業化”だ。独立時計師のブランドに生産面での確実性をもたらすには、この製造工程での工業化は必須である。ある程度の技能を持った時計師ならば、パーツ製造から最終組み上げまで誰でもが可能で、そこに“ムラ”があってはならない。独立時計師個人の年間生産量の枠内ならともかく、ある一定量の生産を行う時計会社となると製造過程での確実性と安定性が必須条件になる。シュナイダー氏の(おそらく相当な)苦心があったのはこの点だと思う。しかし“一定量の生産のための工業化”といっても、その“一定量”とはあくまでも従来の方針の延長上にあることは、シュナイダー氏の「手作りの部分は大切にしながらも」という言葉に表れている。

  • 2020年7月にラング&ハイネのCEO兼マネージング・ディレクターに就任したアレクサンダー・グティエレス・ディアス氏
  • 2020年7月にラング&ハイネのCEO兼マネージング・ディレクターに就任したアレクサンダー・グティエレス・ディアス氏。1999年以来、21年間をリシュモン グループに在籍し、ミュンヘンの北部ヨーロッパ・オフィスで様々な役職を歴任。2013年からはボーム&メルシエのジェネラル・マネジャー、2019年より英国のウォッチファインダー(セカンドユースの高級腕時計を扱う売買プラットフォーム)のドイツ語での運用管理を務める。2017年から2019年はリシュモン グループの数ブランド(A.ランゲ&ゾーネ、IWC、パネライ)を担当。

 ここで「ヘクトール」についてギズベルト・L.ブルーナー氏が説明を加える。


「重要なことは2021年に『ヘクトール』という新作を発表したことです。このモデルは時計界にかなりのインパクトを与えたと思います。『ヘクトール』は若い世代の顧客に向けたモデルで、価格的にも他のモデルと比べて低く抑えています。しかし生産数などはそれまでに築いたラング&ハイネの伝統を受け継ぎ、計99本の世界限定生産です(グリーン、ブルー、グレーの3種類の文字盤が各33本)。これが実現できたのは、2020年にCEO兼マネージング・ディレクターに就任したアレクサンダー・グティエレス・ディアス氏の決断もありますね。価格的に抑えていますが高い品質を実現しています。ムーブメントはUWD製造の手巻きの『33.2』というキャリバーで、スワンネック緩急針を装備したヘクトール専用のエクスクルーシブ・ムーブメントです」(G.L.ブルーナー氏)


「キャリバー33.2の開発には苦労しましたが、これが有効に『ヘクトール』に使用されたことは現場の人間も喜んでいますよ」(J.シュナイダー氏)


「価格を抑えているので、通常モデルのような手作業をしているわけではありません。しかし高品質であることは間違いなく、結果的に若い顧客にアピールすることができました。売り出し直後の数時間で完売したのです。例えば『Chrono 24』(世界最大と言われる時計の販売・通販サイト)では8万米ドルで販売されており、ニューヨークのオークションでは3万米ドルで落札されました」(G.L.ブルーナー氏)

 こうなると次のアイデアを聞きたくなる。


「これも限定版になりますが『ヘクトール II』を考案中です。キャリバーは改善する予定で、サーモンピンクカラーの日本限定15本の特別エディションもあります」(G.L.ブルーナー氏)


 では、このような生産体制を採る現在の工房の規模と作業内容はどのようなものだろう? マルコ・ラング氏が在籍していた2013年頃は工房の時計職人は10人ほどだった。


「スタッフは全部で34人です。その内時計師は6人。他にCNC担当やフィニッシング担当がいます。我々も他の工房と同様にCNCマシンを使用しますが、表面加工と仕上げはすべて手作業で行っています。歯車と軸は前もって組み立てて、それを組み込むという作業で、様々なパーツや事前に組み立てたキットでムーブメントを組み立てていきます。一方、文字盤やケース、針などは顧客に選んで頂き、彼らの希望に沿った外装部を製作します。

 我々の工房の特徴は、この段階からひとりの時計師がひとつの時計を組み上げているということです。そのメリットとしてはひとりの時計師の責任感を生み出すわけですが、各々の時計師の技術力・経験値はかなり高いレベルでなければなりません。

 2007年以降は、エナメル工房を開いています。当時はマルコさんがケースも製作していましたが、現在ケースは自社製作ではなく外注品。エナメルダイアルについては、特別な技法に特化・集中したいという我々の気持ちの表れとして“エナメル・シャンルべ”という技法を用いています。針についても様々な技術を用いており自社工房製作です」(J.シュナイダー氏)




協力:ドイツ時計株式会社 / Thanks to:Thanks to:Deutsche Uhren




INFORMATION

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ドイツ時計株式会社
〒153-8580 東京都目黒区三田1-4-1ウェスティンホテル東京 1F
TEL: 03-6277-4139


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