H.Moser&Cie.H.モーザーの魅力は驚くべき起業家による長く豊富な歴史と高度な技術です
「H.モーザーの歴史と遺産が
ブランド取得の理由です」
メイラン氏は、熱心な時計愛好家ならわかるように“複雑時計の揺りかご”と呼ばれるスイスのヴァレ・ド・ジュウに長く続く名門時計一家の出身。そして「MELBホールディングス」とは、このメイラン家が2006年に設立したファミリー企業であり、同社のCEOはエドゥアルドの父で、かつてスイス有名メゾンの代表も努めたジョージ・ヘンリー・メイラン氏である。そのメイラン家がなぜH.モーザーの経営に乗り出したのか? まずはこの疑問をエドゥアルド氏に聞いた。
「メイラン家はジュウ渓谷で時計製造をずっと行ってきましたが、祖父の代はル・サンティエの『ル・リヨンドール』というホテルを経営していました。その祖父は私が1歳の時に亡くなりましたが、そこで父はホテルの経営を続けるか、時計の道に進むべきか大いに悩んだそうです。結局、時計の道を選択したので現在のメイラン家があるというわけですが、私としてはそうしてくれたことを喜んでいます。
そもそもC.H.メイランは1880年代に先祖であるクロード・アンリ・メイランが始めた会社ですが、第二次世界大戦ごろまでは当家が所有していました。ただ、この会社がいつ終わったとは言いづらいですね。というのも自社ブランドだけでなく、他社のためにもムーブメントを製造していましたから。
しかし父は時計師ではなくメカニカルエンジニアであり、品質管理などの部門で大手のメゾンで働いていました。また、アフターサービスを担当していたこともあったそうです」
そんな時計一家に育ったエドゥアルド氏の身の回りにはいつも時計があった。
「家族が経営する時計会社の工房にあったミニッツリピーターを好きになったのが、私と時計の関係の始まりです。それは何歳だったかわからないぐらい小さな時でした。
大学では精密工学を勉強しましたから父の仕事に近いテクノロジーを学びました。同時に私は起業家(アントレプレナー)としての精神を持っているので、いつかそれを試してみたいと思っていたのです。
やがて大学を卒業し、最初は経営コンサルタントとして働きだしたのですが、その後、スイスの時計商社に入り、時計と関わるようになり外国にも赴任しました。
一方で90年代から父が祖先が作ったC.H.メイランの時計を集めはじめたのです。それを商社時代に横目で見ていましたから、当初はC.H.メイランのブランドを改めて立ち上げようと考えました。その際、メイランの競合ブランドを調査し、ワクワクしながら新しいブランドを立ち上げようと考えていました。
そうこうしているうちに父が経営に携わっていた大手メゾンを退職し、自由に動けるようになったので一緒にブランド創設に向けて動きはじめました。
ただ、実際にどうすればいいかと考えたとき、ゼロから立ち上げるより、すでにあるブランドを手に入れ、それを成長させていくほうが簡単ではないかと考えたのです。
そこで興味を持ったのがH.モーザーでした。H.モーザーにはすでに豊富な歴史と高度な技術を持つブランドとして注目していたので、これを買収することにしたのです」
ブランド取得後、即座に対処した
ムーブメントの改良作業
H.モーザーの歴史と技術に魅力を感じたことがブランド入手の大きな動機だったと語るエドゥアルド氏だが、より詳しくその魅力を語っていただこう。
「H.モーザーの魅力は驚くべき起業家の歴史があることです。そして永久カレンダーやインターチェンジャブルエスケープメントなど高度な技術を持っていること。自社工場ではヘアスプリングを製造できる設備とノウハウがあることも特別な強みです。そしてなによりも現在では珍しい完全な独立系ブランドであること。しかもミュージアムであるシャルロッテンフェルズには、過去の素晴らしい遺産をたくさん保有しています」
ところがメイラン家がH.モーザーを手に入れてから、重大な問題が発覚する。それは独創さゆえに、自社で開発したメカニズムにいくつかの問題があったことだ。しかし、この問題についてもエドゥアルド氏は真摯に対応した。すぐに徹底的に問題点を洗い出し、改良などの手を打ったのである。そして2013年には時計師と共に自ら来日し、問題点と対策についてのプレゼンテーションさえ行った。
「正直、ブランドを取得する前には、あまりじっくりと検討することはできませんでした。あの段階ではH.モーザーが存続できるかどうかの瀬戸際だったので、我々も大急ぎで決定する必要があったのです。その結果、予想より遙かに修正要素が多いとわかりましたが、再スタートにあたって我々にはH.モーザーを改善する責任がありました。これは決して簡単なことではありませんでしたが、非常に良い経験でした」
>>圧倒的な発想力で時計界に刺激を与えるH.モーザーのスペシャル・モデル
取材・文:名畑政治 / Text&Report:Masaharu Nabata
撮影:堀内僚太郎 / Photo:Ryotaro Horiuchi
INFORMATION
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