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Watch Person Interview vol.51  復活と再生をイメージした 美術工芸的タイムピース 『Hisui』

復活と再生をイメージした 美術工芸的タイムピース 『Hisui』

「こちらの『ヴァントゥイット』は、『Hisui(翡翠)』と名付けたモデルです。

  チタンを用いたムーブメントには新しい処理を施し、別部品でブリッジを装飾しています。この装飾を採用するため、ブリッジに細いチューブを通し、ビスで固定する方法を開発しました。ルビーの入った軸受けも同じ処理がなされています。

  このような構造を新たに考案したのは、塗工棟梁である北村さんの芸術表現が自由にできるよう配慮したからです。このモデルのダイアルは北村さんの工房で製作された“彩影蒔絵”という技法が使われています。

  この技法は、螺鈿(らでん)を応用した独自に編み出されたもので、漆の加飾面を平坦に研ぎ出すだけでなく、光の反射を緻密に計算して貝に微妙な角度がついており、いろいろな色に見えるのです。

  ただ、今回は翡翠を表現するために、使える貝の種類と部位が限られました。つまり、原材料となる貝から一番採取することが難しい緑と青に光る切片を選んだんです。

  そしてこの“彩影蒔絵”の加飾文字盤にバーと数字のインデックスがアプライド(植字)で入っています。この処理は世界初だと思います。

  これが難しいのは、時刻の指標として重要なインデックスを、正確な位置に固定することでした。インデックスを固定する穴を最終工程で開けるのですが、正確な穴あけのため、北村さんの印籠製作や修復に欠かせない技術が活かされています。

 このように『Hisui(翡翠)』は、それぞれの伝統的な技術をコラボレーションしたもので、私はその完成度に非常に満足しています」


 今回、ヴティライネンさんが特に見せたい“新作”が『Hisui(翡翠)』と同じく工房で製作された特製のコレクターケース。


「この乾漆素材によるケースも北村さんの工房で製作しました。内側も梨地による総仕上げです。時計を入れた時の重量バランスも考慮して設計され、乾漆でこれだけ大きな収納ケースが作られたのは史上初かもしれません」


 次々と驚くべき作品を現実のものとするヴティライネンさん。次に手にとったのはGMTモデルだ。


「こちらのモデルはプラチナ・ケースの『GMT-6』です。『ヴァントゥイット』とムーブメントの外観は変わりませんが、地板を含めて70もの部品を追加しています。このGMT機構はモジュールではなく内蔵。つまり、地板から設計しなおして開発したものです。

 インデックスはサテン風のロジウム処理仕上げ。素材であるホワイトゴールドに特殊なウェットタイプのサンドブラストで肌理の細かな模様を付け、その後にロジウムメッキ処理すると、化学変化によってエッジの効いたシャープなインデックスにそのまま白色が浮き出してきます。塗装だと思う方もいますが違います。

 特徴は、GMTの針が通常とは逆に回ること。実際に購入された方からは、“とても使いやすい”と言われます。私は常に操作性の良さを目指して時計を作っています」



「雲龍庵」の北村辰夫さんが製作した時計保管用のケース

ヴティライネンさんの注文で「雲龍庵」の北村辰夫さんが製作した時計保管用のケース。こちらにも翡翠のテーマに合わせた美しい蒔絵と螺鈿が施されており、時計を収めた際の重量バランスも計算されているという。


取材・文:名畑政治 / Report&Text:Masaharu Nabata
写真:堀内僚太郎 / Photo:Ryotaro Horiuchi


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