Strap World 03 "Galuchattail"「ガルーシャテイル」美しさと構造への徹底追及から生まれた珠玉のウォッチ・ストラップ 01
紳士服の仕立てから時計ストラップ作りへ
小島さんを翻弄した過酷な運命とは?
浅草の今戸に工房を構える「ガルーシャテイル」。その存在を知ったのは4年ほど前だった。ネットで「時計ストラップ」を検索したところ「浅草鱏(あさくさえい)」というブランドを発見。それが「ガルーシャテイル」だったが、鱏革を前面に打ち出す風変わりなストラップ工房という印象を得た。
その後、2019年に飛田直哉氏による「NH WATCH & Co.」発表会にて、そのストラップが「ガルーシャテイル」製と知り興味が倍加。先日、ネットでコンタクトし、ついに取材が実現した。
「ガルーシャテイル」代表であり職人が小島国隆さん。浅草生まれの浅草育ち。かつて曽祖父が皮革の鞣し業を営み、親類にも革関係者が多い生粋の浅草っ子である。
その小島さんがハンドメイドの時計ストラップ工房を営んでいるのは、ある種の必然という気もするが、話を聞くと、ここに至るまでには紆余曲折があった。
社会人となり、まず小島さんが飛び込んだのは皮革ではなく洋服の仕立て業界。22歳で都内某テーラーに入り、生地のカッティングや仮縫いなどを担当して仕立て技術を身に付けた。そこで将来はカッターとして独り立ちできればと思っていた29歳のころ、テーラーの親方が問題を起こして経営状態が不安定になり転身を考えたという。
「型紙からのカットとミシンがけができたので、時計ストラップ大手メーカーの下請けの仕事を引き受けたのです。次にやるなら革製品だと思っていましたしね。
そもそも紳士服は国外縫製に移行していたので、もう洋服は無理だと思ったんです。その点、革製品は一から十までひとりで作れるので『これがやりたかった!』と時計ストラップの仕事に決めました。でも本当はタンニン鞣しのイタリアン・レザーで財布とかを作りたかったのですが、残念ながらそういった工房には採用されなかったんです」
ひょんなことから時計ストラップの世界へと足を踏み入れた小島さん。だが、本当の苦労はここから始まったのだ。
バカにしていた時計ストラップだったが、
技術と構造を身につけるほどに深みに嵌り込む
勤め先のテーラーをやめて、思わず踏み込んだ時計ストラップ作りだったが、当初はストラップのことをバカにしていました、と小島さんは語る。
「洋服は型紙が洗練され、どこの縫製会社に出しても同じようにできるシステムが構築されていました。私は洋服のパターンがひけてミシンもできたので採用されましたが、ストラップは洋服ほど洗練されてなく、型紙が同じでも違う職人が作ると全然、違うものになる難しさがあったんです。そこで当初は『財布をやりたかったのにストラップか』と軽く見ていたのですが、そこに独特の難しいノウハウがあり、しかも時計を良く見せるポイントがストラップだとわかって深みにはまったんです」
しかし大手メーカーでは大量生産。下請け工場には6人が在籍し、月に2万本ものストラップを製造しなくてはならない。それでも必死に技術を習得し6か月後には社員となり、3年働いて副工場長にまで昇格した。
「でも工場ではコストダウンが最大の目標だったので自信を持って良いモノを作る体制ではなかった。とにかく納期とコスト削減が最優先。これに嫌気がさしてきたころ、特注品担当になって、その比率が徐々に増えてきたんです。そこで『これからはこういう高級品の時代だ』と実感しました」
29歳で工場に入った小島さんも33歳となりステップアップのため退職。次に勤めたのは都内の一等地にブティックを構える老舗の時計ストラップ工房だった。
「ブティックは一等地ですが下町に工場があり、そこで番頭さんに習うのですが、いっこうに教えてくれない。でも若い女性の弟子が入ると、その娘には手取り足取りなんです」
これを横目で見ていた小島さんは独自にストラップの研究を開始した。
「友達がブレゲやオーデマ ピゲなど高級時計を買うようになり、彼らから使わなくなったストラップをもらい、それを夜な夜なバラして研究をはじめ、理想のストラップを求めてコツコツ作りはじめたんです」
ところが高級メーカーのストラップを研究するうち、あることに気づく。
「ストラップは使えば使うほど味が増して愛着が湧くものですし、直接肌に触れるものなのでメンテナンスやリペアが大切なはず。しかしストラップには基本的に修理がなく、一部が壊れると使い捨て。高級ブランドのストラップは6~7万円はしますが、このクラスの革製品でアフターサービスが存在しないのは、ありえません。
しかも分解してみると修理ができる設計や構造になっていない。これじゃダメだ。そこで自分で作るからには、使い込んで愛着が持てて、修理できるものにしたい。そのころにはもう『時計のストラップなんて』とバカにしていた気持ちが消え、逆に『誰にも負けないようなストラップを作りたい』という思いに変わっていたんです」
知人からの依頼で手掛けたガルーシャが
工房設立の起点となった
こうして小島さんがついに独立を決心したのが36歳のころ。「浅草鱏」というブランドと「ガルーシャテイル」という工房を設立するきっかけは、懇意の雑誌編集者に依頼され初めて手掛けたガルーシャ(アカエイ)の革を使ったストラップだった。
「当時は、ガルーシャの革がどこに売られているのかさえわからない。でも、とにかく革を手に入れてストラップを作ってはみたものの良し悪しの区別もつかず、何度も失敗を繰り返しながら作り始めたんです。それでその方のブログに掲載してもらってネットで動画を流し、浅草の革のイベントに出ていたところ、三越の方が来て、外商向けの特注品を頼まれたんです。さらにその三越の担当者が合併したばかりの伊勢丹に異動になったので挨拶に訪ねたところ『催事に出てください』と伊勢丹の催事に出店したこともありました。
そこで自宅では作れないので、マンションの配電室だった二畳ぐらいの狭い倉庫を借りて、そこでひとりでストラップを作っていたんです。ここで4年働きましたが、とにかく寝る時間以外は仕事をしていましたね。あとは研究開発に費やしました」
狭い元倉庫でコツコツと仕事をする小島さんを見かね、友人が革製品修理の仕事をまわしてくれたりもしたが、ストラップの依頼は決して多くはないものの、高級時計愛好家だけに予算にも納期にも余裕があり、気に入ってもらって紹介が増え、顧客の輪が徐々に広がっていったという。
この独立から現在9年目。当時の顧客がいまでも交流があり、そのころに製作したストラップは今も健在で愛用いただいているというからさすがである。
INFORMATION
ガルーシャテイル(Galuchattail)についてのお問合せは・・・
Galuchattail【ジジカワ時計ベルト工房】
〒1110024 東京都 台東区今戸1-13-2-1階ガルーシャテイル
※ご来房の際は事前にご連絡ください。
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