Strap World 03 "Galuchattail"「ガルーシャテイル」美しさと構造への徹底追及から生まれた珠玉のウォッチ・ストラップ
独自のノウハウが詰め込まれた
「ガルーシャテイル」のストラップ作り
すでに紹介したように小島さんが理想とするのは使い込むほどに味わいが増し、たとえ一部が壊れてもキチンと修理できるストラップ。その基本ポリシーは今も変わらない。
「私は常に直せる構造を追求しています。また、これまで常識だったことが、果たして本当に良いのだろうか、ということも考えています。
たとえば革に縫うための穴を開ける『菱目打ち』という道具で穴を開け、そこに針で糸を通すと斜めにステッチが入ります。革製品の世界では、これが正統派と言われていますが本当にそうでしょうか?
時計のストラップは曲げ伸ばすものですから、菱目で開けた穴は角が鋭角なので、こすれて糸が切れやすい。また曲げ伸ばすことで穴が広がりやすく、そこから割れることもある。特にガルーシャの場合、穴を開けると硬い組織に鋭いバリが発生し、ここに擦れて糸が切れてしまうので、私は穴の中をピンバイスに極細のドリル刃をつけてバリを除去する面取り加工を施しています。
またストラップで高級だと言われている『縁(フチ)返し』は、見た目は綺麗ですが、巻き込むための部分を薄く削ぐので破れやすい。ですから縁は顔料で染めて仕上げ剤や蝋を塗り込み、これを熱で浸透させて磨き上げたほうが耐久性が高くて良いと思います。それに実は『縁返し』の方が作業自体は楽。顔料と蝋で縁を丁寧に仕上げると3日ぐらいかかりますからね。とにかくフチ(コバ)は仕上げが命。低い温度でコテを熱し、手首のひねりで丁寧に仕上げます。硬いガルーシャより、柔らかい牛革のほうが難しく時間がかかります。そこでコバの仕上げ剤も、はがれにくい調合を独自に開発しています」
-
ガルーシャの革に型紙を当てて革包丁で切り出す。“石”と呼ばれる硬い組織を持つガルーシャ革は刃物にも負担がかかるという。この革包丁のハンドルも持ちやすいように小島さんはカスタマイズ。
-
ストラップの外観に多大な影響を及ぼすステッチ工程。通常、ハンドステッチでは糸が斜めに連なるが、小島さんの場合、直線的に並んでいる。その秘密は糸の擦り切れを防ぐため、ピンバイスで穴を面取りしているからだ。
-
縫い上がったガルーシャのストラップのフチに顔料を塗布。この後、仕上げ剤や蝋を塗り込むが、この仕上げ剤も小島さんが独自に調合したものを使い、より美しく丈夫に仕上がるように工夫している。
-
仕上げ剤や蝋を塗ったフチにアルコールランプで熱したコテを当てて革の内部にまで浸透するように処理。このような丁寧な処理が一番、手間がかかるが、これを施すことで見栄えと耐久性が格段にアップする。
革の鞣しから別注する
小島さんの探究心
逆境にも負けない強さと持ち前の探究心によって自分なりのストラップ作りの技術を獲得した小島さん。生まれ育った浅草に「ガルーシャテイル」を開設し、3年が経過した。
「今では顧客の要求がエスカレートして難しいオーダーが多いので、フルオーダーだと月に3本作るのが限度。年間だと40本程度ですね。
注文のシステムは、まずセミオーダー。革を選び、長さやステッチの色、裏の素材などを選んでいただきます。それ以外ではブレスレットやブートニエールなど革小物。それでも時間が足りず、気がつくと終電の時間だったりします。
フルオーダーの場合、工程を入れ替えたりする必要があるので、自分ひとりならできますが、なかなか人に任せるのは難しい。しかし需要も増えているので、今後は新しい人を育てていきたいと思います。ただし、いきなりガルーシャでは難しいので、まずはクロコダイルかなと考えています」
小島さんが今進めているのは特殊な鞣しを施したクロコダイルに後から着色する技法。
「通常、クロコダイルの革はクローム鞣しで、問屋には黒と茶色ぐらいしか在庫がなく、他の色は注文で染めて貰っています。この注文が10枚単位で、一匹12万円ぐらいする上、一匹からストラップが3本ぐらいしかとれません。そこで考えたのが染料が染み込みやすいようタンニン鞣しのクロコダイルに、ストラップ完成後、パティーヌ技法で着色する方法です。これなら好きな色に自在に染めることができます」
フランスの靴ブランド「ベルルッティ」によって世に広められた「パティーヌ」。もともとは家具などに古色を付けるためだったが、すっぴんの皮革にさまざまな染料やワックスで着色し、ニュアンスに富んだトーンをもたらす方法として認知された。これを小島さんは時計ストラップに応用し、タンニン鞣しクロコダイルという特殊な皮革を別注するに至ったのだ。
顧客の高い要求を満たす
オンリーワンのストラップ
もちろん、工房の看板素材であるガルーシャにも小島さんならではの探究心と経験が生かされている。
「ガルーシャの革自体は硬くて傷付きにくいのですが、タイやインドネシアから積み上げて運ばれるので革同士が擦れ、問屋に並ぶ頃にはガルーシャの粒の表面に小傷が付き輝きが落ちてしまいます。そこで工房の窓際の小部屋を研磨ルームにして、ガルーシャ革を再研磨してピカピカに磨き上げてからストラップ製作に入ります。ですからオーダーいただいたガルーシャ・ストラップが擦れて小傷が付いても、アフターリペアとして再ポリッシュ可能です」
さらに単なるリペアだけでなく、使い込んだストラップに対してのカスタマイズまで考えているという。
「ずっと同じストラップでは飽きる、という方もいるかもしれません。そこでメインテナンスの際に裏材を別の色の革で張替えたり、フチの色を変更したり、ストラップ本体をパティーヌ加工したり、ステッチをほどいて縫い直すことで色を変更したりできます。
もちろん、オーダーいただいた残りの革は、顧客ごとに分け、湿度管理して保管しているので、ループなどが壊れた場合は、まったく同じ素材でリペアできます」
既存の方法に囚われず、確かな技術に裏打ちされた自由な発想でハイエンドな時計ストラップ作りを実践する小島さん。当然、それなりの価格にはなるが、口コミ中心にその名が広まり、最近ではバックオーダーも抱えているという。
さらに最近では新たな技法も導入。 ひとつは、注文主の手首のカーブを専用ゲージで採寸し、そのカーブに合わせてストラップを曲げて製作する「3D Flex製法」だ。これに対し、従来のような曲げ加工なしの技法は「2D ストレート製法」と命名している。
「こちらも、見た目は一般的なまっすぐなストラップですが、『3D Flex製法』で身に付けた技術を応用しているので、まっすぐなストラップながらフィット感は抜群です」と小島さんは説明する。
従来の製法に疑問をいだき、常に改良と改革を怠らない「ガルーシャテイル」。高級時計ストラップの新勢力として、私はこの工房に、これからも注目し続けていいきたいと考えている。
-
Galuchattail(ジジカワ時計ベルト工房)
住所:東京都台東区今戸1-13-2
不定休・要予約
galuchattail.com
INFORMATION
ガルーシャテイル(Galuchattail)についてのお問合せは・・・
Galuchattail【ジジカワ時計ベルト工房】
〒1110024 東京都 台東区今戸1-13-2-1階ガルーシャテイル
※ご来房の際は事前にご連絡ください。
ガルーシャテイル ブランドページを見る