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H.Moser & Cie.H.モーザーから新時代のクロノグラフ「ストリームライナー」が登場。流線型の時代、再び 02

非常な緊張をほぐしてくれた
「ストリームライナー」の高評価

H.モーザー スイス本社 マーケティング・ディレクターのニコラスさん「確かに新作を初めての紹介する瞬間はナーバスになります」

「確かに新作を初めての紹介する瞬間はナーバスになります。もちろん『ストリームライナー』には自信がありますし、自分も大好きですが緊張していたのは事実です。しかし、世界各国、どこでも非常に良好なリアクションを得たので今は安心しています」


 2020年1月、突然発表されたH.モーザーの新作「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック」。その発表にあたりH.モーザーのスイス本社よりインターナショナル セールス・ディレクターのニコラスさんが来日した。

 実はニコラスさんと我々はH.モーザー入社前から旧知の仲。だが改まってインタビューしたことはなかった。そこで今回、初となるニコラスさんのインタビューが実現した。

 まず聞きたいのは新作「ストリームライナー」の評判だ。これまでラグジュアリーでエレガントなモデルが主流だったH.モーザーにおいてステンレススティールを用いたスポーティなクロノグラフは初めて。それだけに日本はもちろん、世界各国での評価が大いに気になる。


「確かに新作を初めての紹介する瞬間はナーバスになります。製品というのは時間をかけて開発し悩みに悩み抜いて完成に至るわけですから。もちろん『ストリームライナー』については自信を持って送り出した製品であり、自分自身も大好きですが、それがどう受け取られるかはわかりませんから、かなり緊張していました。しかし、世界各国でお披露目して非常に良好なリアクションを得たので今は安心しています」


 と安堵の表情を見せるニコラスさん。ただし、このインタビューが行われたのは情報解禁前。ここで見たことは、しばらく伏せておく必要がある。その時間がもどかしい。


「あなたたちはほんの少しの我慢ですが、我々は開発中、外部の誰にも言えず、何年間も耐えてきたんですから、もう少し我慢してください」


 それが今、こうして皆さんにお知らせできる。それは私にとっても大いなる喜びだ。


「国際的な場で活動したかった。
その結果として時計会社を選んだのです」

H.モーザー スイス本社 マーケティング・ディレクターのニコラスさん「原点にはハインリッヒ・モーザーという時計師が存在し、彼の仕事と人間性も魅力ですが、もうひとつエドゥアルド・メイランという人物の存在も欠かせません」

「H.モーザーは小さなブランドです。その原点にはハインリッヒ・モーザーという時計師が存在し、彼の仕事と人間性も魅力ですが、もうひとつエドゥアルド・メイランという人物の存在も欠かせません。しかもキチンと戦略を立て時計師に適確な指示を与えることで、彼の方向性がブランドを支えています」


 ところでニコラスさんはスイス人なのですか?


「いいえ。私はチェコ人の父とスコットランド人の母の間にイギリスで生まれ、ロンドン郊外で育ちました。そして子供の頃、ジュネーブに移りフランス語圏で育ったのです。

 時計業界に入る前は短期間、違う業界で働いていましたが、24歳の時、ショパールに入社しました。

 なぜ時計業界に入ったかというと、私はもともと国際的で多文化なバックグラウンドを持っていたからです。一時、プラハに住んでいたこともあり、いずれ何か国際的に活動する会社に入りたいと思っていたのです。だからショパールのような会社に入ることは自然の成り行きでした。

 ただし最初から時計が好きだったわけではなく、時計会社での求人を探した結果でもありません。言うなればショパールに入って時計を好きになることを学んだのです」


 我々がニコラスさんに会ったのもショパール時代。フレンドリーなニコラスさんとは瞬く間に打ち解けた。


「ですから、これまで働いた時計会社はショパールとH.モーザーだけです。どちらもファミリー企業であり、ショパールを経営するショイフレ家もH.モーザーを経営するメイラン家も情熱を持って事業に取り組んでいます。私はそこに共感したのです。

 ただ、私がショパールにいた最後の数年間は、日本に現地法人を設立し、組織がさらに大きくなっていった時代でした。そこで自分の力というよりブランドの力で仕事をする感じになってきたので、もっと自分自身の力を試すというか、実力を発揮できる場所はないかと考えたのです。それが2010年、30歳の時でした。

 もちろん、私は長くショパールで働きショイフレ一家とも親しくしていたので簡単な決断ではありません。しかし転職するにあたりショイフレさんは平和的に会社を離れることをサポートしてくれたので、今でもショイフレ家とは良い関係を保ち続けています」


「H.モーザーの精神的な支柱でもある総指揮者。
それがCEOのエドゥアルド・メイランです」

H.モーザー スイス本社 マーケティング・ディレクターのニコラスさん「スペシャルなモデルを思いつくと、彼はいつも“アイブ・ゴッド・アイデア!(ひらめいた!)”と叫びながらオフィスにやってきます。」

「スペシャルなモデルを思いつくと、彼はいつも“アイブ・ゴッド・アイデア!(ひらめいた!)”と叫びながらオフィスにやってきます。特に『スイス・チーズ』の話を持ってきた日のことが忘れられません。このアイデアを商品開発責任者に説明した時、彼(開発責任者)は口をあんぐりと開けていたんです。でもこれがユーザーの信頼を勝ち得るひとつのキーになりました」


 ジュネーブの華やかなブランドからシャフハウゼンのH.モーザーへの転職。正直、ブランドのステイタスなどより、地域の隔たりや文化の違いにとまどわなかったのか?


「H.モーザーの移り最初の5年はジュネーブからシャフハウゼンに通っていました。H.モーザーの経営も安定していませんでしたし、子どもの学校などの問題があり、すぐには引っ越せなかったのです。しかし、経営にメイラン家が携わりブランドの未来に確かな手応えを見いだすことができたので、5年前、家族と共にチューリヒに引っ越しました」


 ニコラスさんがH.モーザーに入社した2010年は前経営者の時代。その2年後、ジュウ渓谷の時計の名門メイラン家が経営に乗り出したのだから、入社直後から大きな波に翻弄されたようなものだったはずだ。

  「2012年に経営者が変わったことで、私もいろいろと学びました。一番感銘を受けたのはエドゥアルド・メイランがCEOとなり、誇りをもってH.モーザーというブランドを大事に育てようとしていること。私も単に報酬のために仕事をするのではなく、ブランドの歴史や背景まで、すべてを理解することでマーケティングの内容やコストなども学びながら、マネジメントにより深く関わっていけるようになりました。これが嬉しかったですね」


 2012年に経営がメイラン家に移って以降、CEOであるエドゥアルド・メイランの個性と采配によりH.モーザーの名を高める原動力となったのは事実。この点についてメイラン家以前からH.モーザーにかかわってきたニコラスさんはどう見ているのか?


「エドゥアルド・メイランという人物をひとことで言えば“グッド・チームプレイヤー”。エドゥアルドをリーダーとして時計師も含め、全員のチームワークが非常にうまくいっています。そして、このチームを発奮させる気概が彼にはあります。

 同時にエドゥアルドはベストなブランド・アンバサダーです。アントレプレナー(起業家)としての精神を持ち、挑戦心が旺盛でやりたいと思ったことに果敢にチャレンジしていきます。また、彼は自分のそばにイエスマンを置きません。独断専行で決めるのではなく、チームで討論しながら何かを作り上げていくことが好きなんですね」


「あの有名俳優に似ていると言われて
決して悪い気はしませんね」


 2005年のブランド再スタートから現在まで、日本市場はH.モーザーに常に注目してきたが、H.モーザー本社はその日本市場をどう捉えているのだろうか?


「日本は品質や精度に非常に厳しいので、大きなチャレンジが要求される市場です。特にH.モーザーにとって2012年は厳しい状況にあり、その後の経営がどうなるかわからない状態でした。旗艦モデルの永久カレンダーは完璧ではなかったし、ある意味マイナスからの再スタートでしたから、日本の求める高い品質に追いつくのは大変でした。

 しかしエドゥアルドの努力の結果、マイナスからが抜け出すことができました。これは日本でのパートナーから信頼と協力が大きかったと思います」


 実はニコラスさん、我々の間では昔から俳優のジム・キャリーに似ているというのが定説となっている。これについてご本人はどう思っているのか?


「いやぁ、ただただ面白いなと感じていますよ。それに以前、エドゥアルドがある発表会で『ここで我々の新しいアンバサダーを紹介します!』と私をジム・キャリーだと紹介したことがありました。その晩、私はホテルの部屋に帰って泣きましたけどね。

 いや、ウソウソ! もちろん自分から積極的に言うことはありませんが、『そういえば、あなたは誰か俳優に似ていますね、誰だっけ?」なんて言われることがありますから意識していることは間違いありません。

 でもジム・キャリーは良い俳優ですから嫌な気はしません。自分からは決して言いませんし、僕自身はあまりひょうきんな人間ではありませんけどね」



取材・文:名畑政治 / Text&Report:Masaharu Nabata
撮影:江藤義典 / Photo:Yoshinori Eto



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