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Swiss Watch Confidential Vol.26 スイス時計産業の反転攻勢

スイス時計産業の反転攻勢

 ところが、である。スイス時計協会が今年(2017年)6月に発表した最新の統計を参照して驚いた。このような沈滞ムードから一変して、多少なりとも良い方向に向かっていることがわかったのだ。実際今年3月から4月、5月へと月を追うごとに輸出が右肩上がりに回復し始め、統計資料の見出しも「Strong growth」となにやら威勢が良い。長いトンネルを脱して、スイス時計産業が反転攻勢に向かったというのだろう。


  以下の数字はいずれも今年(2017年)5月の前年同月比だが、確かにそれを裏付けるものがある。まず主力商品である腕時計は、5月の輸出総額17億スイスフランの94%を占め、その額は昨年(2016年)5月より11.4%増、腕時計を含んだ全体の額でも9%増を達成している。素材については、貴金属は個数で16.4%増、金額で16%増、スティールも個数で5.8%増、金額で12.2%増。さらに地域別輸出額でも、アジアを代表する香港が18.1%増で中国が34.4%増、ヨーロッパ勢では、イタリア26.7%増、イギリス12.9%増、フランス9.5%増、ドイツ3.7増だ。今まで述べてきたことが嘘のような好調ぶりだ。


  ただしこの統計資料には、好転の要因についてはとくに述べられていない。不況を乗り切るメーカーのさまざまな戦略がようやく効果を発揮し始めたということだろうか。価格の見直しと品質の向上、すなわちエントリーからミドルレンジでのコストパフォーマンス、また、従来の広告宣伝ではなく、ネットを利用した商品情報やブランドイメージの拡散、今や各ブランドも力を入れる自社オンラインショッピングなど、さまざまな要因が思い浮かぶ。


  ひとつ確実に言えそうなのは、これまでの「売り手市場」から「買い手市場」への転換だ。いくらメーカーが素晴らしい時計を作っていると自負したところで、商品に消費者を満足させる魅力がなければ意味がない。時計が必要不可欠な実用品ではなくなり、とりわけ高級時計が個人的な嗜好品になってきた現状を思えばなおさらそうだ。メーカーの発想や取り組みが変わり、結果としてV字回復を加速させることになればよいが、引き続き注意深く見守る必要があるだろう。

構成・文:菅原 茂 / Composition&Text:Shigeru Sugawara


Swiss Watch Confidential backnumber | スイス時計事情バックナンバー


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