Swiss Watch Confidential Vol.26 機械式を追い越す勢いのクォーツ
機械式を追い越す勢いのクォーツ
ふたたび統計に戻る。腕時計全体で見れば、個数の2540万個は前年比9.8%減で、その総額183億スイスフランも前年比9.8%減であるから、いずれにしても腕時計の輸出状況は芳しくない。ここでムーブメントをタイプ別にみると、興味深い傾向が見て取れる。
スイス時計協会の統計ではムーブメントのタイプを以前から機械式とエレクトロニックに大別している。後者はまず一般的なクォーツ腕時計とみてよいが、輸出額の伸びを牽引してきた機械式腕時計がここ2年下平均値の推移で下降線をたどりついにマイナスに転じている。2014年では機械式がクォーツをはるかに上回っていたのに対し、その差は2015年から2016年にかけて一気に縮まり、機械式はエレクトロニック・ウォッチと同レベルに並ぶまでになったのだ。しかもエレクトロニック・ウォッチのほうは上昇傾向にある。
ただ、いまひとつよくわからないのは、ホットな話題をふりまくスマートウォッチ(コネクテッドウォッチ)についてである。これらもエレクトロニック・ウォッチに含まれるのだろうが、おそらくスイス時計産業にとってはニッチのせいか、それへの言及は見当たらない。しかし、タグ・ホイヤーが戦略的に仕掛けているように、この種のハイテク時計は確実に存在感を増してゆくだろう。
また機械式高級時計に多く使われている素材の貴金属に着目すると、その大幅な減少(18.5%減)もまた、落ち込みの要因にあげられている。だとすれば、機械式ムーブメントでゴールド・ケースという従来の典型的な高級モデルの売れ行きが鈍いというふうに解釈できる。これに対してスティールは3.3%減と減少幅が小さい。厳しい現状にあっても、スティール製の腕時計は、金額で41%、個数で54%という、素材では最大比率を占め、比較的安定している。「SS、クォーツ、手頃価格、上質感・・・」といった要素を併せ持つのが売れる時計という話をあるスイスのメーカーから聞いたが、それもまた現状に即した賢明な戦略といえる。これまで機械式の新作ばかりに注目してきた我々の側も発想転換が必要かもしれない。
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モーリス・ラクロアの「アイコン クロノグラフ」は、伝説の人気モデル「カリプソ」のデザインを現代的にアレンジし、ムーブメントもクォーツを採用。クォーツによる高品質なコストパフォーマンス・モデルの模範を示す。SS。ケース径44mm。価格120,000円(税抜)。問い合わせ:DKSHジャパン Tel.03-5441-4515
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ロンジンも久々に超高精度クォーツ・ムーブメントを搭載した「コンクエスト V.H.P.」の新作を発表。年差±5秒で、日付は永久カレンダーだ。SS、ケース径41mm。予価121,000円(税抜・今冬発売予定)。クロノグラフ(予価190,000円)もある。問い合わせ:ロンジン/スウォッチ グループ ジャパン Tel.03-6254-7351
構成・文:菅原 茂 / Composition&Text:Shigeru Sugawara
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