Swiss Watch Confidential Vol.25 名実ともに世界最大のスケールに
名実ともに世界最大のスケールに
開かれた見本市への次なる前進は1983年に訪れた。名称もこの上なくシンプルに「バーゼル」と改められ、「バーゼル83」というように開催年を付加するようになった。お気づきだろうが、開催地を見本市の名称そのものにしたのは、1917年以来初めてのことだった。「バーゼル=時計宝飾展」というように、都市がその代名詞になったのだ。
そして1986年には、ヨーロッパのみならず、それ以外の世界の国々まで出展が緩和され、ここに至って、スイス1国からヨーロッパ、そしてグローバルな時計宝飾展へと発展してゆく。それを受けて「バーゼル95」からは「ワールド・ウォッチ・クロック&ジュエリー・ショー」という、世界規模を強調する副題まで加えて正式名称とした。業界関係者たちの間では単に「バーゼルフェア」と呼ぶのが通例になった。
1999年に大規模な会場のリニューアルが行われ、これまでとまったく異なるゆったりした空間に高級感あふれるブースが立ち並ぶようになると、2003年にはまたもや「バーゼルワールド」へと改名する。「バーゼル」と「ワールド」を結合して呼びやすいワンワードを造語した背景には、ジュネーブで開催されるもうひとつの時計展示会「SIHH(国際高級時計展)」への対抗意識も込められているという話をその頃スイス人から聞いた。主催者の真意まで確かめたわけではないが、「全世界が一堂に会するのはここバーゼルだけ」というニュアンスは容易に読み取れる。ハイエンドの機械式時計からカジュアルなデザインウォッチまで、たしかに世界のありとあらゆる時計が揃い、世界的なビジネスが展開する壮大なスケールを見れば、「バーゼルワールド」に勝るものはないだろう。
まさか「バーゼルワールド」への改称が功を奏したわけでもないだろうが、この2003年からの2013年までの10年に、スイス時計産業にとって空前の黄金期が到来する。アジア市場、とりわけ中国の急拡大を受けて輸出は年々伸び、「作ったそばから飛ぶように売れる」とメーカーが嬉しい悲鳴を上げるほど好景気が続いたのだ。従来のメインホールを解体して2013年に新たに完成した未来的な設計の見本市会場もその勢いを見事に象徴していた。
ところが皮肉なことに、翌2014年を絶頂期として、その後は留まるところをしらない輸出減の連続である。ここ2年は時計バブルの崩壊期とさえ言われてきた。次回は100周年のバーゼルワールドから見えてくるスイス時計産業の現状について考察することにしよう。
構成・文:菅原 茂 / Composition&Text:Shigeru Sugawara
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