Swiss Watch Confidential Vol.22 アジア市場の減速
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スイス中央銀行は、2011年9月にスイスフランの価値上昇を抑制するために、1ユーロ=1.2スイスフランの上限制度を導入したが、2015年1月にこれを撤廃。一時0.8スイスフラン台にまで暴騰した。ざっと4割も割高になる計算なので、輸出に基盤を置く時計産業に衝撃が走った。
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素材の点で輸出を伸ばしているのは、ステンレススティールや貴金属以外の金属による腕時計だ。その筆頭はチタンだろう。写真はウブロの最新作「ビッグ・バン トゥー ルビヨン 5デイズ パワーリザーブ」のチタン・モデル。
右肩上がりで年々輸出を伸ばしてきたスイス時計産業は2012年 にピークに達し、2013年にその伸びにブレーキがかかった(詳しくは「スイス時計事情 第18回」参照)。そして今は停滞期、さらには減速期に入っているという厳しい見方さえもある。2015年明け早々にスイス中央銀行による対ユーロ上限撤廃(1ユーロ=1.2スイスフランの上限を廃止)を受けてのスイスフラン高騰がスイス時計産業に大きな衝撃を与えたのは記憶に新しいが、一方では、輸出を牽引してきたアジア市場がこのところ振るわないという懸念材料がある。
スイス時計協会が発表するレポートには、輸出の翳りが歴然として表れている。2015年7月は昨年の同月に比べて、金額ベースでなんと9.3%減である。ここ12か月の推移でも上向き傾向は見られず、下がる一方なので心配だ。今や市場の5割強を占めるアジアでの売り上げは、どの地域でも停滞していると報告され、7月のアジアでの販売実績は21.4%減と報じられているから、事態は思ったよりも深刻なのではないか。
7月を素材別で見ると、最も苦戦しているのは、全個数の5割を占めるスティール製腕時計である。個数ベースで10.7%減、金額ベースでは13.8%減で、これが全体の低迷に大きな影響を及ぼしているという。低価格帯から中価格帯の主役であるスティール製腕時計は、消費者にとって近づきやすく、最近は品質の向上も著しいので、順調に伸びているのかと思ったら、数字を見る限り必ずしもそうではない。ボリュームゾーンであるがゆえに、供給過剰や飽和状態が続いているとも考えられる。
では貴金属製腕時計は好調かといえば、個数では12.3%減、金額で3.7%減という、あまり芳しくない結果だ。逆に個数で19.9%増、金額で8.2%増と健闘が目立つのが、貴金属やスティール以外に分類されている金属である。統計では具体的な素材への言及はないが、スポーツウォッチを中心に最近多用されているチタンやハイテク合金だろう。全個数の約13%を占める「その他金属」が貴金属やスティールの落ち込みを補っているという構図なのだ。
構成・文:菅原 茂 / Composition&Text:Shigeru Sugawara
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