GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2021「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2021」21年目のターニング・ポイントを迎えて顕在化したその功績と課題 02
受賞ブランドの偏りと賞のサロン化は
ジュネーブの歴史的文化だろうか?
2001年の第1回から2021年の第21回まで、計21回の受賞ブランドを統計するとある種の偏りが顕在化する。これは以前より感じていたことだが今回の統計で明らかになった。これまでの21年間で受賞の栄誉に輝いたブランドの総数は75(2012年に1回のみ創設された「BEST WATCHMAKER PRIZE」と、同年に創設され現在へと続く「審査員特別賞(SPECIAL JURY PRIZE)」の受賞ブランドや組織・人物は除く)。以下に記すのは公式資料を元に作成した受賞回数の上位5ブランドである(同率も含む)。
第1位 オーデマ ピゲ 受賞回数:15回
(初受賞は2001年「エドワール・ピゲ ミニッツリピーター」のコンプリケーションウォッチ賞。2019年には「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシン」が“金の針”大賞受賞)。
第2位 ピアジェ 受賞回数:12回
(初受賞は2002年「ピアジェ 1967」のデザインウォッチ賞。2020年「アルティプラノ アルティメート コンセプト」で“金の針”大賞受賞)。
第3位 ヴァシュロン・コンスタンタン 受賞回数:11回
(初受賞は2001年、第1回GPHGにおける「レディ・キャラ」の“金の針”大賞。2005年「トゥール ド イル」で再び“金の針”大賞受賞)。
第4位 ヴァン クリーフ&アーペル 受賞回数:10回
第5位 ショパール、グルーベル・フォルセイ、タグ・ホイヤー、ヴティライネン、ゼニス 受賞回数:各8回
うがった見方をすれば旧SIHH参加ブランドに集中しているように思える。賞の名称に「ジュネーブ」が入っていることから、ついこのように思えるのだが、一方でジュネーブに本拠を構えるパテック フィリップは2001年の初受賞後、2006年を最後に受賞歴はない。ロレックスに至っては一度も受賞していない。SIHHにパテック フィリップとロレックスが参加しなかった20年ほど昔のことがデジャブのように感じられる。また、そもそも“ジュネーブ派”ではないスウォッチ グループのブランドはブランパン(4回。2015年を最後に受賞歴なし)、ブレゲ(6回。2014年を最後に受賞歴なし)、ロンジン(2017年に1回)、オメガ(2014年に1回)と極めて少ない。
つまり、途中もしくは最初からエントリーしていないブランドが存在するのである。GPHGは「ショウケースメディアであり、また優れたプロモーションツールです」と当組織のディレクターは述べている(『ウェブクロノス』日本版。2020年11月21日付記事)。しかしながら、そのGPHGを優れたツールとして認めないブランドも多く存在する。せっかく世界に広く門戸を開けているのに、参加ブランドに偏りが見られるのは残念。これではかつてグレッシブでも表現した“時計界のアカデミー賞”や、“世界で最も権威のある時計賞”という表現が果たして正しいのか、メディアとして反省点が出てくる。
先に登場したスイスの事情通は、他の時計賞と比較しながら「システム自体が正しいものではないと思います」と述べる。
「『モントレ パッション(MONTRE PASSION)』誌の時計賞と比較しますと、当誌の時計賞は審査委員がバーゼルとジュネーブを廻って集めた情報や資料を元に毎年5月に選考を行い、委員の意見交換の中で選出モデルを決めていました。一方のGPHGは参加料を支払ったうえでの立候補制を採用しています。
ここに選考段階における違いが明瞭になってきます。
(旧SIHH参加ブランドの受賞数が多いという質問に対して)グループ間の対立というよりは、各ブランドのマーケティング戦略の中でGPHGを選択するか否かの問題だと思います。他ブランドと比較される意思がない、あるいはGPHG自体に関心がないブランドは参加しないことになります(リシュモン グループ内でも受賞数4回のカルティエは2007年を最後に受賞していない)。
問題点というなら“(その年の)時計業界全体を反映していない”ということでしょう」
またもうひとつの問題は“選考委員会が大きくなり過ぎた”ところもある、とその人物は述べる。
「当初は30人で編成されていた選考委員会は、現在では財団(FOUNDATION)という組織形態になり参加人数も300人ぐらいでしょうか?(2021年度のアカデミーのメンバーは約500人)。選考も2回の投票を経て複雑になりました」
このような状況に彼はGPHGの将来を懸念する。
最後に我々メディアにも責任がある。現在では速報性の高いウェブメディアの記事が圧倒的だ。毎回のGPHGの記事も速報で報じられるのは大切な事だが、その内容のほとんどがGPHG本部発表のプレス資料の換骨堕胎、いわばコピー&ペーストで占めている。繰り返すが、速報性が重要とはいえ仮にもメディアを標榜するなら何らかの視点がそこにあるべきだと思う。この状況が加速すれば、時計ファンはGPHGのサイトを直接チェックすれば済むことで、メディアの必要性や存在意義は今後ますます減じていくだろう。
21回目を迎えたGPHG 2021の存在意義は高いものの、21年を経た結果見えてきた大きな課題も顕在化している。今後は新ステージに向けてどのような改善がなされるのか、期待しつつ観察を継続したい。