2019 watch trendデータを元に振り替える2019年のウォッチトレンド 03
レポート3:
【巨大市場である香港が、政情不安で大ブレーキ。一方、日本の時計市場は安定して伸びている】
篠田:時計ブランドや時計店に話を聞くと、相変わらず時計は堅調に売れていると聞きます。しかもインバウンドに頼らなくてもいいらしい。これは嬉しい傾向ですね。さて2020年の時計市場は、どうなるのでしょうか?
田中:2019年に顕著だったのは、いわゆる“ラグジュアリースポーツ”の市場の活発化でしょう。パテック フィリップ「ノーチラス」、ヴァシュロン・コンスタンタン「オーヴァーシーズ」、オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」が御三家ですが、どこも品薄状態だと聞きます。
名畑:こういった状況の中では、A.ランゲ&ゾーネが、初のスポーティモデルであり、レギュラー品としては初となるSSモデルとして「オデュッセウス」を発表したというのは興味深いですよね。さらにはショパールからは40年前のサンモリッツを再解釈した「アルパイン イーグル」も登場。この流れは止まりません。
篠田:僕もノーチラスとロイヤル オークを所有していますが、使いやすいんですよね。使えるシーンも似合うファッションも幅広いし、頑丈だから日常使いもOK。高級SUVに通じるオールマイティな存在なんですよね。
竹石:こういった市場の流れをうまく取り入れたのが、ベル&ロス「BR05」でしょう。価格はこなれているので、“ラグジュアリー”とは言えないかもしれないけど、自分たちのスタイルを守りながらも、新鮮な時計に仕上げている。
篠田:今年のバーゼルワールドでは、写真の撮影も不可能で資料もなかったけど、みんな食いついてましたもんね。こういう時計は、是非とも売れて欲しい。市場を活性化させる存在になりそうです。
田中:人気ジャンルは、どうしても“○○風”が増える傾向にありますが、ラグジュアリースポーツはそういった誘惑に負けないで欲しいですね。
名畑:“オメガマニア”としては、ムーンウォッチのコーアクシャル化が気になるニュースですね。Cal.3861は耐磁性能も高いマスター クロノメーターも取得しており、今後の標準となるのか興味があります。
田中:ムーンウォッチの遺産を守りつつ、現代的に進化するのは素晴らしいですね。その一方で、2020年はさらに復刻モデルが増えそうですね。私自身はヴィンテージウォッチも好きなのですが、毎日使うには防水性などで心配なところが多い。その点復刻モデルは、雰囲気を残しつつ毎日使えますから。ただし“余計なことはしてはいけません”ということは強く言いたい。
篠田:そうなんですよね。風防素材やケースサイズの変更は許容範囲ですが、しれっとカレンダーを加えるのだけは勘弁してほしい。あれで全てが台無しになるんですよね。
名畑:しかし最近はようやく、ロンジンの復刻モデルがカレンダー無しになった。ロンジンCEOのカネルさん(ウォルター・フォン・カネル)に、散々提案してきた身としては嬉しいですよ。
竹石:ロンジンは復刻モデルに強いブランドだけど、ここにきてさらに魅力を増していますよね。「ロンジン ヘリテージミリタリー 1938」はすごくよかった。
篠田:ハミルトン「カーキ パイオニア メカニカル」もいいよね。こういった時計には、価格を超える価値がある。歴史というのは、揺るぎない価値なんですよ。
竹石:あとは国際保証の長期化っていうのも、地味に凄い進化だと思う。カルティエやIWCが8年間で、ジャガールクルト7年。これまでが2~3年保証だったことを考えると、大きな進化といえるでしょう。サポート体制が充実したことで、さらに安心感が増します。これはユーザー想いの嬉しい進化ですね。
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名畑政治 / Masaharu Nabata
Gressive編集長。1959年、東京都生まれ。時計、カメラ、ギター、ファッションなど膨大な収集品をベースに、その世界を探求。1994年から毎年、スイス時計フェア取材を継続中。 -
田中克幸 / Katsuyuki Tanaka
Gressive編集顧問。1960年、愛知県生まれ。1988年「グッズプレス」創刊に携わり、後に編集長に就任。この間、1993年に同社で「世界の本格腕時計大全(後の『TIME SCENE』)を創刊し、2009年まで編集長を務める。同年よりGressiveに参加。1994年よりスイスを中心としたヨーロッパ各国を取材。 -
竹石祐三 / Yuzo Takeishi
1973年、千葉県生まれ。1998年よりモノ情報誌編集部に在籍し、2011年から時計記事を担当。2017年に出版社を退社し、Gressiveの記事制作に携わる -
篠田哲生 / Tetsuo Shinoda
1975年、千葉県生まれ。40を超える媒体で時計記事を担当しており、10数年ものスイス取材歴を重ねてきたが、この業界では今でも“若手”というちょうどよい湯加減のポジションをキープ
取材・文:篠田哲生 / Report&Text:Tetsuo Shinoda
写真:江藤義典 / Photos:Yoshinori Eto