Watch Person Interview vol.67 オーデマ ピゲ 歴史研究家 マイケル・L.フリードマン インタビュー
ジュウ渓谷の時計作り
その伝統の維持が我々の使命です
そもそも米国の時計博物館で学芸員としてキャリアをスタートさせたフリードマン氏だが、数ある時計ブランドの中からオーデマ ピゲを選んだ理由とは何なのか?
「私がオーデマ ピゲを選んだ理由は、まずファミリービジネスであり、このような形体で経営されている最後の会社であること。その一員に加われることは、非常に誇らしいことです。なによりオーデマ ピゲは成長や新規の開発と同時に、伝統を継承していくことも大切だと考えています。オーデマ ピゲというブランドは、過去に片足を置き、そこから未来に踏み出していますが、この考えを実戦しているブランドは他にはないと感じますし、このポリシーによって伝統と革新を両立させている珍しい存在です。
私はこのようなブランドに自分の専門性を貢献し、豊かな歴史を共有できることは非常に喜ばしいと判断しました」
社内に歴史部門を持ち、自社ミュージアムを公開しているブランドは少なくないが、“歴史研究家”という肩書きを持つ役職を設けているブランドはあまり聞いたことがない。
「オーデマ ピゲの責任感には、本当の意味がしっかりあります。時計作りでも、マネージメントでも、オーデマ ピゲにはジュウ渓谷における時計作りを、どう維持していくのかに責任を感じているブランドです。
現在、時計製造の現場では自動化が非常な勢いで進んでいますが、オーデマ ピゲのように手作業を守るブランドは非常に珍しく、今後、さらに貴重になるでしょう。
おっしゃる通り、多くのブランドが歴史部門を持ち、自社ミュージアムも設けています。しかしオーデマ ピゲでは、部門の枠を越えてマーケティングやプロダクトの部門とオープンに対話し、過去にインスパイアされつつ未来を創造しています。それが他のブランドと違うのではと思います」
我々は現代の時計にも、
古い時計と同じ敬意を表します
フリードマン氏の活動により、我々は知られざる複雑時計の真の歴史に触れることができるが、氏によれば、その対象は多岐にわたるという。
「私は可能な限り広い視野で歴史を捕らえるようにしています。オーデマ ピゲだけでなく、ケースやダイアルなどのサプライヤー、さらにブランド同士のかかわりや時計業界全体の発展に目を配り、調査の幅を広げるよう気を配っています。そして、その結果を自社で抱え込まず、時計界全体で共有できるよう考えています。
たとえば閏年表示は、オーデマ ピゲが1955年に発表したCal.5516というパーペチュアルカレンダー・ムーブメントに初めて搭載されましたが、このエボーシュ(基礎ムーブメント)は、ヴァルジュー社製であり、これを購入し、オーデマ ピゲの時計師がパーペチュアルカレンダーとして完成させたことを公表しています。
このようにエボーシュが、それぞれのメーカーやブランドで加工され、仕上げられて製品として完成するのがスイスにおける時計の作り方であり、それは現在も継承されています。私はブランドという枠だけを通して時計の歴史を見たいとは思いません。フェアで広い視野で俯瞰し、理解することが大切ですし、時計業界には複雑で絡み合った歴史があることを知って欲しいのです。
この複雑に絡み合った歴史の糸は鏡のようなものであり、現在、我々の工房(複雑時計開発製造部門のオーデマ ピゲ・ルノー エ パピ)ではリシャール・ミルのために特別なモデルを作っていますが、19世紀末にも他のブランドのために複雑時計を作っていました。同じことが昔も今も行われているのです」
さて、リピーター、パーペチュアルと調査を進めてきたフリードマン氏だが、これから調査しようと考えているジャンルとは何だろう?
「今、調査を進めているのは『ロイヤル オーク』の歴史です。開発時のスケッチを見つけ出し、開発に関わり今も存命する時計師から話を聞いています。
その他のテーマはヴィンテージのワールドタイムですね。この機構は、先ほどあげた1920~60年代に作られた複雑時計の製造数には含まれていません。理由は、あまりに数が少ないから。
また現在、私と修復担当の時計師で進める仕事のひとつに、ダイアルがどう作られたかを掘り下げ、現在の職人で、それを可能な限り再現し、修復に用いることがあります。
さらにヘリテージ部門では1名、手書きで資料を残しています。もちろんコンピュータでもデータを記録していますが、手書きの伝統も途切れないようにしているのです。
これは古い時計と同じリスペクト(敬意)を現代の時計にも表していることを意味します。今の時計もいずれヴィンテージになりますから、それを所有する方や将来、その時計を手に我が社を訪れるであろう子孫の方にも、昔と同じ体験をしていただきたいのです。
このように過去と未来に同時に軸足を置いているのがオーデマ ピゲです。ですから、私が抱えているさまざまなテーマはエンドレスなもので、一生かかっても、調査に終わりがないのではないでしょうね」
取材・文:名畑政治 / Report&Text:Masaharu Nabata
写真:堀内僚太郎 / Photos:Ryotaro Horiuchi
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