Watch Person Interview vol.59 年間生産本数を厳格に規定し無駄な工業化への道を否定
ダブル トゥールビヨン 30°テクニック(Double Tourbillon 30°Technique) 2004年発表のグルーベル フォルセイ第1号モデルの発展型で2009年に発表。2011年のクロノメトリー国際コンクールにおいて、トゥールビヨンでは高得点を獲得した。18K 5Nレッドゴールド製。
2004年のバーゼルワールドでのこと。あの頃は立体構造の三次元トゥールビヨンがあちらこちらで芽を開き始めた時で、その中でも発想と構造のユニークさで突出した存在感を示したが、ロベール・グルーベル氏とステファン・フォルセイ氏という、ふたりの時計師によるグルーベル フォルセイ(GREUBEL FORSEY)である。
そのデビュー作は「ダブル トゥールビヨン 30°(Double Tourbillon 30°)」。ひとつのキャリッジの内側と外側にふたつの回転軸を備え、外側のトゥールビヨンが4分、内側が1分で回転し、キャリッジが30°の傾斜構造を持つトゥールビヨンであった。
新時代トゥールビヨンの発表から12年目の2016年6月1日、日本初のブティックが東京・銀座にオープン。これに合わせて来日した共同創設者であり時計技術者であるステファン・フォルセイ氏に、グルーベル フォルセイの過去・現在・未来を尋ねた。
「2004年の創設以来、1070本の時計を生産しました。ムーブメントは毎年のように開発し、現在では20種類を揃えます。つまり約10年間で20種類のムーブメントを完成させたといえるでしょう」
現在の工房は2009年にラ・ショー・ド・フォン郊外に完成したものだが、建物全体がまるで30°トゥールビヨン・キャリッジのように傾斜した独創的な構造となっている。
「この工房には約100人の従業員がいます。手作業が中心ですが、これは創業以来変わらない方針です。年間生産本数を増やす予定はなく、工業化も考えていません」
少数精鋭による厳選本数生産、手作業中心という体制で、独創的な高性能腕時計の開発・生産を順調に進めてきたグルーベル フォルセイ。ステファン・フォルセイ氏は、彼らの歴史のなかでエポックとなった製品をこのように総括する。
「2009年の『ダブル トゥールビヨン 30° テクニック(Double Tourbillon 30° Technique)』ですが、2011年の国際クロノメトリー・コンクール(International Chronometry Competition)で、トゥールビヨンでは最も高精度である日差0.3~0.8秒(45日間)という高得点を出し、1000点満点中915.8点を獲得してこの大会を征しました」
次に気になるのが高速化トゥールビヨンの先駆けともいえる、2007年発表の「トゥールビヨン 24 セコンズ(Tourbillon 24 Seconds)」だ。2015年には「トゥールビヨン 24 セコンズ ヴィジョン(Tourbillon 24 Seconds Vision)」も登場した。
「このモデルは昨年(2015年)の『ジェネーブ・ウォッチ・グランプリ(GPHG。GRAND PRIX D’HORLOGERIE DE GENEVE)』において、2度目の最優秀時計賞(ゴールドハンズ=金の針賞)を受賞しました。
複雑機構であるにもかかわらず薄型を実現し、高温焼成エナメル・インデックスなど、全体をエレガントな仕上げを目指したモデルです。トゥールビヨン・キャリッジは一見すると8時位置ですが、正確には43分。キャッリジ上部のスモールセコンドとの位置バランスを考慮した結果です。トゥールビヨン部のみケースバックをドーム型にしたので、ケースを何度も試作しました」
Stephen Forsey
ステファン・フォルセイ
ロベール・グルーベル氏と共にグルーベル フォルセイの共同創設者であり時計技術者。1967年英国生まれ。ロンドンで基礎を学んだ後、スイスへ渡り1992年、複雑時計工房ルノー・エ・パピでロベール・グルーベル氏と出会う。1999年にふたりは起業、2001年にスイス、ラ・ショー・ド・フォンにムーブメント製造会社「コンプリタイム(Complitime)」、2004年にグルーベ フォルセイを設立する。
ダブル トゥールビヨン 30°テクニックを説明するフォルセイ氏。「2011年の国際クロノメトリー・コンクールでは、コンクール用に調整したモデルではなく、販売済みの製品を顧客から借り受けて出品しました」。つまり、通常製品で高得点を獲得したのである。
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グルーベル フォルセイのもうひとりの創設者・時計技術者であるロベール・グルーベル氏。1960年フランス生まれ。時計師である父親の経営する時計店で学び、1987年にスイスへ渡りIWCに入社、グランド・コンプリケーションの開発に関わる。1990年、ルノー・エ・パピに移籍。以降はフォルセイ氏と行動を共にする。
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彼らの最初の工房は、ラ・ショー・ド・フォンにある1855年建設の「アンシアン・マネージュ」という、建物内部の壁面にフレスコ画が描かれた建造物だった。2009年には郊外に拠点を新造し、その建物はまるで彼らの創作物であるトゥールビヨンの30°キャリッジのように傾斜した外観で、周囲から際だった存在感を示している。
取材・文:田中克幸 / Report&Text:Katsuyuki Tanaka
写真:江藤義典 / Photos:Yoshinori Eto
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