Watch Person Interview vol.48 エブシュタイン氏に託された 機械式時計の遺伝子
「クロノスイス(CHRONOSWISS)」とは、ドイツ北部に生まれ、スイスのホイヤー社で勤務経験を持つ時計師ゲルト・リュディガー・ラング(Gerd-Rüdiger Lang)氏が1983年、ミュンヘンに興した時計ブランド。
そのクロノスイスは、時計のコレクター・研究家でもあるラング氏の技術と発想をベースに、古典的ながら新たな魅力に溢れた機械式時計を次々に発表。クロノスイスは通好みのブランドとして高い人気を獲得した。
やがて同社は2012年、スイスの実業家オリバー・エブシュタイン氏に譲渡され、新工房をルツェルンに設立。2015年からは栄光時計が日本の輸入代理店となった。
その記者発表のため、オーナー兼CEOのエブシュタイン氏が来日。話を伺う機会を得た。
まず聞きたかったのは、どんな経緯でクロノスイスの経営権を獲得したのか、ということだ。
「これは、たくさんの偶然が重なった結果です。私はクロノスイスというブランドを30年以上前から知っていましたが、たまたま2年半ほど前、ミュンヘンの時計展示会に行ったところ、同行した友人がラングさんを知っていて、紹介してくれたのです。そして、その夜、私とラングさんは朝まで語り明かしました。
そこでわかったのは、ラングさんは時計業界にとって極めて重要な人ということ。彼こそ真のアントレプレナー(起業家)です」
こうしてエブシュタイン氏とラング氏は友人となった。
「ある時、ラングさんが私に言うのです。『私はクロノスイスを娘のナタリーにプレゼントしたいんだが、彼女は会社の経営に興味を持ってはいないようなんだ』と。
ラングさんは会社に売ることも考え、実際、ある大きなブランドが名乗りを上げたそうですが、それは不調に終わりました。
なにしろラングさんにとってクロノスイスは自分の子どものようなものですから、ブランドの売却によって時計がすっかり変えられ、アイデンティティを失うことを恐れたのです。ですから彼は、家族の誰かが引き継いでくれることを願っていたんですね。
しかし、娘さんが興味を持っていないとわかったので、なんとかクロノスイスの遺伝子を知る人、そして守れる人に譲れないか、と考えたのです。
そこで彼は、いろいろな質問をして私を試しました。その結果、『君だったらクロノスイスを譲ってもいい』と言ってくれたのです。
私は悩みました。時計は趣味としてはいいですが、ビジネスとしてはどうか? 果たしてうまくやっていけるのだろうか? とね。
しかし、クロノスイスを引き継ぐことは大きな誇りであり、とても嬉しいという思いが優先し、決断したのです。
もちろん、時計が趣味からビジネスになったわけで、好きな時計を作れる喜びの一方、経営の難しさを痛感することにもなりました。
そして何より私は、クロノスイスの遺伝子を引き継ぐことの重大さを実感することになったのです」
Oliver Ebstein オリバー・エブシュタイン
1975年、スイス・チューリヒ生まれ。大学卒業後、主に薬品やサプリメントの分野における中規模な国際企業の経営に携わり、その後、経営コンサルタントとして活動。2012年2月にクロノスイスの経営権を譲渡され、最高経営責任者に就任。妻のエヴァ・エブシュタインさんと共に経営にあたる。
ゲルト・リュディガー・ラング Gerd-Rüdiger Lang
1944年、ドイツ北部、ハノーバー近郊の街、ブルンズウィック生まれ。16歳で時計職人を目指し時計学校に入学。1964年、スイス・ビエンヌのホイヤーに入社。1960年代末にフランクフルトへ戻り、ホイヤーの現地法人を設立。1980年に同社を退社し、リペア専門工房を経て、1983年、ミュンヘンにクロノスイスを設立する。2012年、経営権をエブシュタイン氏に譲渡し、現在は顧問としてクロノスイスを見守っている。
取材・文:名畑政治 / Report&Text:Masaharu Nabata
写真:江藤義典 / Photos:Yoshinori Eto
クロノスイス(CHRONOSWISS) についてのお問合せは……
栄光時計株式会社
〒110-0016 東京都台東区台東4-19-17
TEL:03-3837-0783
>>クロノスイス(CHRONOSWISS)公式サイトはこちら