OMEGA 「私は必ず帰れると信じていた。悲観論者は宇宙飛行士になるべきではないんだよ」
「事故が起きた時、私は“これで地球に帰れない”とは思わなかった。宇宙飛行士にはネガティブな部分があってはダメなんだ。そして、役立ったのはこのポジティブさとスピードマスター。この時計は入手して50年近くたつが今も正常。それどころか無重力や高温、低温でも、まったく問題なし。だからこそNASAが選んだんだろうけどね」
1970年4月11日、米国のアポロ計画で三度目の月着陸飛行となるアポロ13号は、ジェームズ・ラベル船長、ジョン・スワイガート司令船操縦士、フレッド・ヘイズ月着陸船操縦士を乗せて地球を旅立った。
だが13日午後9時7分、酸素タンクの爆発によって月着陸を断念。ヒューストン管制室の指示で月の裏側を回って地球に帰還することとなった。
電気系統がダウンする中、大気圏再突入時に宇宙船の姿勢を修正するために14秒間、逆噴射する必要が生じたが、カウントダウン用クロックは使用不能。そこで噴射時間を正確に計測し、再突入角度を決定するのに役立ったのは、宇宙飛行士が着用するオメガ/スピードマスターだった。
このアポロ13号に搭乗したジェームズ・ラベル船長が昨秋来日。その思いを伺った。
まず伺いたかったのは、映画「アポロ13」が事実に忠実かどうかということだ。
「あの映画は事実に基づき正確に作られていますが、違うところが、たったひとつあります。それは事故の後、ヘイズが“おまえが攪拌スイッチを入れたから事故が起こったんだ!”とスワイガートを責め、言い争う場面。でも実際にはあのようないざこざはありませんでした。なぜ、あのシーンが加えられたかといえば、ロン・ハワード監督が俳優の演技だけでは疲労感が表現できないので、それを表現するためのシーンを作りたい、と申し入れたんです。だから私はそれを認めたんです」
あの状況下でのふたりの言い争いは、緊迫感をさらに高めるが、実はあの時、どの飛行士も極めて冷静だったとラベル船長は語る。
「宇宙へ飛び立つにはネガティブな部分があってはダメなんだ。逆に言えばネガティブなことを少しでも考えるような者は宇宙飛行士になるべきではない。
私はあの事故があってもネガティブなことは一切、考えなかった。あの時に役立ったものは、それはポジティブな思考だ。常に成功を信じること。我々には限られた道具と管制室の支えしかなく、とにかく彼らのことを信じ続けるしかなかったんだよ」
残念ながらアポロ13号は月へ着陸できませんでしたが、今でも月に行きたいと思いますか?
「もちろん今でも月の上に立ちたいね。なぜなら、それが私の夢だったから。ただ、もう高齢なので後輩に道を譲ろうと思うよ。
だが結果的に、あの爆発事故は宇宙計画にとって良かったんだ。当時、月着陸はすでにルーティン化(陳腐化)していたので、事故が起きず計画が遂行され、無事に月に降りて石を拾って帰ってきたら、あっという間に人々の記憶から薄れていっただろう。
しかし、事故が起きたことでNASAの努力と誠実さが示され、“栄光ある失敗”として、人々の記憶に残ることができたんです」
では最後に、アポロ13号の体験は、その後の人生で役立ったでしょうか?
「私はあの事故から、どんな困難にあっても恐れないことを学んだ。アポロ13号以後も、さまざまな危機に見舞われたが、やるべきことをやった結果、こうなると予測し、それを忠実に行えばいい、と考えることが大切だと知ったんです」
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アポロ13号の奇跡の生還とラベル船長を取り上げ、ラベル船長を表紙に起用した米ライフ誌の1970年4月24日号。月着陸には失敗したが、危機を乗り切り地球へ生還したアポロ13号乗組員は新たなヒーローとなった。
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映画「アポロ13」の原作となった文庫版の「アポロ13」(ジム・ラベル&ジェフリー・クルーガー著 河合裕訳。絶版)。
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地球への帰還後、奥さまのマリリンさん、そして子どもたちと共にヒューストンの自宅で寛ぐラベル船長の飾らない姿が、このライフ誌には掲載されている。
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アポロ13号の船内におけるラベル船長。重大な事故によって月着陸を断念し、地球への帰還も危ぶまれたが、一瞬もネガティブなことは考えず、生還を信じていたという。
スヌーピー アワード受賞45年を祝う 歴史に刻まれる一夜の宴
1970年10月5日にオメガがNASAから「シルバー スヌーピー アワード」を授与されて45周年を迎えた2015年10月5日の夜、東京羽田空港の大型格納庫において、アポロ13号船長のジェームズ・ラベル氏、俳優・江口洋介氏、宇宙飛行士・山崎直子氏、漫画家・松本零士氏ら200名を越える多彩なゲストを招き、スピードマスターの栄光の歴史を祝う盛大なパーティが催された。
パーティの冒頭、スウォッチ グループ ジャパン代表取締役社長のクリストフ・サビオ氏は「今日はまさにシルバー スヌーピー アワード受賞から45 周年を迎えた日です。私が初めてスピードマスターを手に入れてから、ずいぶん年月が経ちましたが、今、改めて、スピードマスターを誇りに思います。この日のために、ジェームズ・ラベル船長がアメリカから来て下さり、そしてこんなに素晴らしいゲストたちとともに、スピードマスターを祝うことができるからです」と述べた。
途中、江口洋介氏、松本零士氏、山崎直子氏、ラベル船長によるトークセッションが行われた。ラベル船長は「アポロ13 号以前、もし宇宙で非常事態に陥ったらどうしようと不安でしたが、アポロ13号が、我々は宇宙での危機的状況をも乗り越えることができると証明したのです」と語った。また山崎氏が「宇宙にいった後、地球の自然の美しさを再発見した」と語ると、ラベル船長は「誰もが死んだら天国に行きたいというが、本当は地球こそ天国なのです」とコメント。
こうして美しい空港の夜景とゲストによる珠玉の言葉で、200人の出席者が感動を共有する特別な夜となったのである。
円形の舞台を中心として放射状にしつらえられたパーティ・テーブル。そこに各界の著名人やリテイル関係、プレス関係者など、およそ200名ものゲストが招待された。
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2015年10月5日、羽田空港内の大型格納庫を舞台として「シルバー スヌーピー アワード」受賞45周年を祝う特別なパーティが開催された。
パーティ会場に隣接する特設のブースでは、オメガ/スピードマスターの歴代モデルをはじめとして、現行および最新作の数々が展示され、ゲストたちの目を楽しませた。
宇宙ステーションを思わせる真っ白な空間では、まずカクテル・パーティが開催された。このブースの中にはオメガ/スピードマスターのさまざまなバリエーションが展示された。
構成:田中克幸 / Direction:Katsuyuki Tanaka
取材・文:名畑政治 / Report&Text:Masaharu Nabata
協力:スウォッチ グループ ジャパン オメガ事業部 / Special thanks to:Swatch Group Japan OMEGA Division
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