Watch Journey Vol.01 in Kobe 「私にとって大切なのは、 製作自体を楽しむことです」
完成した「シンプリシティ」を手にするデュフォーさん。このモデルの発表により、“シンプルだが超高級な腕時計”というジャンルが注目され、大メゾンから小ブランド、そしてもちろん独立時計師までが、こぞって“シンプル+高級”な腕時計を作るようになった。
1999年に徳間書店から発行された「世界の本格腕時計大鑑 1999~2000」は、本誌前編集長(現・編集顧問)の田中克幸と編集長の名畑が中心となって製作した時計専門誌。スイスの独立時計師や彫金師などを多数、紹介する中で、「シンプリシティ」製作前のデュフォーさんも登場し、「もし次に時計を作るなら、針は3本だけ、そして非常に美しく仕上げてあり、丈夫で孫子に伝えていける。そんな時計を作ってみたいですね」と語っている。この記事がきっかけで先に紹介した「独立時計師たちの小宇宙」という番組が生まれた。
デュフォー:私はカミネさんを訪ねて顧客の方と会って話しをしたとき、これはお互いの情熱を確認することだと感じました。いつもは工房でひとり、コツコツやっていますが、日本に来るとアドレナリンの注射をしてもらったような気がするんです。
そして、その名も知らぬ、ひとりの時計師が作ったものを、こんなにも信頼していただき、それに応えることができたのことは、非常に嬉しいですね。
上根:時計好きは、その背景にどんな時計師がいるのか、そして、どんな哲学で作ったかに興味があるんですよ。
デュフォー:いわば自分の身を削って時計を作っているので、私の一部が、その時計に入っていると思ってください。
上根:当時はまだ独立時計師も駆け出し状態で、彼らのおかげでスイスの時計業界が活性化しました。でもその後、独立時計師たちが企業化していく中で、デュフォーさんは、あくまでも時計師個人で作っていたから、アイデンティティを保つことができたと私は思います。
デュフォー:もちろん、私にも投資家から話がありました。月末、どうやって乗り切ろうかと考えている時、そんな話は非常に嬉しいのですが、結局、彼らの申し入れはすべて断ってきたのです。
1978年、私は独立し、5年間はオークション会社で時計の修復をしていました。やがて、ある大きなブランド向けに、グランソヌリの懐中時計を作り、1992年には腕時計のミニッツリピーターを製作しました。そして2002年に「シンプリシティ」を発表し、翌年、初めて赤字から脱出できたのです。
私にとって大切なのは、楽しみながら作ること。つまり、誰かに楽しんでもらえることを想像しながら、製作自体を楽しむことなんです。
上根:そしてもうひとつ、「シンプリシティ」の人気を後押ししたのは、NHKで放送された「独立時計師の小宇宙」という番組だと思うんです。
多くの人にとって、あの番組がデュフォーさんの人気を決定づけましたね。
デュフォー:そういえば昨日、東京のイベントに外科医の方がやってきて、その方の持っている「シンプリシティ」の写真を待合室に飾っているという話を聞きました。
そこで写真を見ながら、末期のがん患者さんに、「もし良かったら、この時計を腕に着けて記念写真を撮りましょうか?」と提案すると、とても喜んでくれる、というのです。
実際、その写真を見せていただきましたが、患者さんが本当に嬉しそうな顔をしているんです。いわば“シンプリシティ・セラピー”ですね。
上根:ところでデュフォーさん、次の新作の構想は固まってきましたか?
デュフォー:今はひとりでブレーンストーミングをやっているところですね。実は頭の中では、この10年ぐらいに時計界で起きたことを整理して、それなりにちゃんとしたものを考えないといけない、と思っているのです。
そして、できるだけハードルは高くしないといけません。これまでと同じ高さのハードルでは上に行けませんし、それでは価値がありません。
もちろん、誰もが私の次回作に目を光らせているでしょうから、ちょっとした失敗でも、いろいろと言われるに違いありません。
ただ、いろいろなアイデアはあるのですが、まだ気持ち的にはっきりしていないんです。
取材・文:名畑政治 / Report & Text:Masaharu Nabata
写真:嶋田敦之、堀内僚太郎 / Photos:Shimada Atsuyuki、Ryotaro Horiuchi
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