SWISS Confidential Vol.27スイス時計事情 第27回 バーゼルワールドに激震走る
バーゼルワールドは継続か終了か?
求められる新たなビジョン
ところでバーゼルワールド側というと、7月30日付でメディア向けにリリースを配信するという、実に素早い対応に打って出た。それは「スウォッチ グループの離脱は残念だが、スイスの他のビッグ・ブランドについて参加の意図を確認した」との一文から始まる。業界でバーゼル組の「ビッグ5」と称されるうち、スウォッチ グループを除くパテック フィリップ、ロレックス、ショパールの独立系3社と、LVMHグループ(タグ・ホイヤー、ゼニス、ウブロ、ブルガリなど)あたりを指しているのは間違いない。
バーゼルワールドは、NZZ紙に載ったハイエック氏がフェア運営者に向けた批判に対する反論も展開しているが、第三者的には腑に落ちないところもある。その論点はひとまずそれは置いといて、フェアを運営するMCHグループの新CEOルネ・カム氏の指揮のもとで進行中という革新的取り組みに目を向けてみよう。
「2019年は、魅力的なマーケティング、コミュニケーション、イベントプラットフォームを優先する」とあり、次のような例を提示している。独立系ブランドや時計師にスポットを当てる「アトリエ」コーナーの強化、時計製造に関する展示、レストランの充実、ジュエリーブランドのためのショープラザの特設、また提携ホテルの料金をリーズナブルに抑えること、デジタルフォーマットによる通年のコミュニケーションなどだ。
このような取り組みに目を通すと、革新的と銘打った「変化」が2019年の特色になるのだろうと、少なくとも想像はできる。しかしながら、「見本市」の存在意義に関わる根本改革への主催者側のビジョンがどうも見えてこないのがもどかしい。来年の出展社はすでに決定していて、規模を縮小しながらもバーゼルワールド2019は開催される見通しだが、心配なのは次の2020年である。なぜなら、今回の離脱騒動が起こるかなり前から、バーゼルワールドは2020年をもって使命を終えるという噂を耳にしたことがあったからだ。噂通りバーゼルワールドは幕を閉じるのか、まったく新しいフォーマットで継続するのか、行方を見守りたい。
取材・文:菅原茂 / Report & Text:Shigeru Sugawara
構成:名畑政治 / Direction:Masaharu Nabata
撮影:江藤義典 / Photo:Yoshinori Eto