SWISS Confidential Vol.27スイス時計事情 第27回 バーゼルワールドに激震走る
時計業界に衝撃が走った
スウォッチ グループのバーゼル離脱発表
2018年の春、バーゼルワールド開催中のことだ。ホテルに帰り、ヨーロッパ現地メディアによるフェア概況につらつら目を通していたところ、こんな趣旨の記事を目にしてびっくりした。「もはや我々はバーゼルワールドを必要としない」、逆に「バーゼルワールドはスイス時計産業に不可欠だ」。いずれもスウォッチ グループの経営陣の見解を引き合いに出したもので、相反する内容のどちらが真実なのか、大いに疑問に思ったのだ。
その後しばらくしてスウォッチ グループは、出展契約を更新したと聞き、一件落着したのだなと思っていたら、あっと驚く展開に衝撃が走った。7月29日付のチューリッヒの地方紙NZZで、同グループのCEOニック・ハイエック氏がフェアに対する不満を吐露し、2019年のバーゼルワールドに出展しない旨を表明したのである。海外の時計メディアにもすぐに取り上げられ、一気に波紋が広がった。
翌日にはバーゼルワールド撤退が正式にアナウンスされ、これにより、見本市会場のメインホールの中央部を独占してきたスウォッチ グループに属すブレゲ、ブランパン、オメガ、ロンジン、ハリー・ウィンストン、ジャケ・ドロー、グラスヒュッテ・オリジナル、ラドー、ティソ、ハミルトンなど10以上の著名な時計ブランドが一挙に姿を消し、見本市会場に巨大な空白地帯を生む結果になった。バーゼルワールドの主役たちが軒を連ねるホール1が来年どのように変貌するのか、そして、グループの各時計ブランドが今後どのような形式で新作発表や受注を行うのか、現時点ではまったくわからない。ちなみに、同グループに限らず、最近ではジラール・ペルゴ、ユリス・ナルダン、エルメスが相次いでバーゼルからジュネーブのSIHHに移行し、またバーゼル出展を取りやめたブランドも少なからずある。離脱ドミノが実際に懸念されていただけに、今回のスウォッチ グループの一件は、実に衝撃的だ。
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ハリー・ウィンストン
1932年、米国ニューヨークで創業した宝石商。その後、時計も手がけるようになり、ジュネーブに巨大な工場を構えているが、2012年からはスウォッチ グループ傘下となった。オメガなどがブースを構えるホール1の中央広場やや手前に壮麗なブースを構えている。 -
ブランパン
時計職人ジャン=ジャック・ブランパンが1735年に創業した世界最古の時計ブランド。クオーツ・ショック時代の休眠期間を経て1980年代初頭に復活。高級機械式時計再興の立役者となる。その後、 スウォッチ グループ傘下となり、バーゼルでブースを構える。 -
ブレゲ
スイス出身の時計師アブラアン=ルイ・ブレゲが1775年にパリで創業。1970年代の復興後、紆余曲折を経て1999年、スウォッチ グループ傘下となり現在に至る。スウォッチ・グループ前会長ニコラス・G・ハイエック氏がこよなく愛したブランドとして知られる。 -
オメガ
1848年に時計師ルイ・ブランがスイスのラ・ショー・ド・フォンで創業。1882年に拠点をビエンヌに移して以降、次々と優れたモデルを製作し、スイス時計界を代表するブランドに成長。バーゼルワールドでは中央部の最も目立つ場所に、巨大なブースを構える。
取材・文:菅原茂 / Report & Text:Shigeru Sugawara
構成:名畑政治 / Direction:Masaharu Nabata
撮影:江藤義典 / Photo:Yoshinori Eto