金属版の上に釉薬(ゆうやく)を何層にも重ねて塗布し、表面がガラス質になるまで高温焼成したグラン・フーエナメル(七宝焼きの一種)や、さまざまな天然石をあしらった耽美な文字盤に定評のあるジャケ・ドロー(Jaquet Droz)。
2009年は50以上のニューモデルを取り揃えているが、例によって、同社はすべてが世界限定8本ないしは88本という少量生産性を敷いている。こちらで紹介するモデル以外にも、ブルーエナメル文字盤をあしらったコレクション、ニューシェイプの角型「グラン・セコンド スクエアー」など秀作ぞろいであったが、複数のモデルに共通して卓越したセンスを感じたのは“黒”の使い方である。例えば、同社初のスプリット・セコンドを搭載する「ラ・ラトラパンテ」は、優雅なローズゴールドケースに、高貴な艶を漂わせるブラックエナメルを組み合わせエレガントなイメージを演出し、一方では、昨年発表された大胆なケースシェイプが特徴のスポーツ・アクティビティモデル「グラン・セコンド SW」に、艶消ししたオールブラックのモデルを投入するなど、モデルごとに演じ分けられた“黒”の表情が巧みな印象だった。
また腕時計以外でも見逃せないトピックがある。18世紀、天才時計師であると同時に、オートマタ(機械式からくり)で世界的に名を馳せた、ブランド創始者のピエール‐ジャケ・ドロー(Pierre Jaquet-Droz)へのオマージュを込めた、タイム・ライティングマシーン「La Machine a écrire le temps」が発表されたのだ。むろん、1300以上のパーツを駆使して製造した機械仕掛けで、スイッチを押せば、現在時刻を器用にペンで紙に書き記す“現代版”オートマタである。
クラシック、コンテンポラリーの境界を軽やかに越えるジャケ・ドローの“タイムピース”は、今後も想像を超える面白い展開を見せてくれそうだ。