BEST ISHIDA GROUP『ISHIDA新宿』から始まるBEST ISHIDAグループの第三章

　東京と札幌を中心に、全国各地に正規時計店を展開するBEST ISHIDAグループが、旗艦店である『ISHIDA新宿（旧 BEST新宿本店）』の大規模リニューアルを終えた。このプロジェクトのかじ取りを行ったのが、総合商社の伊藤忠商事から転身した石田充孝である。

「正規時計販売店である株式会社ベスト販売（BEST ISHIDAグループ）は、私の父である石田嘉孝が土台を築き、兄の石田憲孝が骨格を作りました。私は大学卒業後には一般企業に勤めてきましたが、家では父や兄と時計の話をしてきましたし、幼少期から時計や宝飾に触れて育ってきました。ですから私としては、違和感なく時計の世界に入れたと思っています。『ISHIDA新宿』のリニューアルは私が代表取締役社長に就任する前からのプロジェクトでしたが、コロナ禍という難しい状況の中で無事にオープンを迎えることができたのは、ひとえにスタッフの力だと思います。ヴィンテージ（中古）ウォッチを愛した父と正規時計販売にこだわった兄は、どちらも研ぎ澄まされた感性を持った人物でした。しかし会社というのは“経営者の能力”以上に大きくすることはできません。ですから私はスタッフ全員を経営人材にしていきたい。考えぬける人材を育て、さらにBEST ISHIDAを大きくしていくこと。それが私の仕事だと思っています。」

全面改装された3階フロアには、ジュネーブの名門「ヴァシュロン・コンスタンタン」が入る。落ち着いた空間でぜいたくな気分で時計を選ぶことができるこのフロアは、『ISHIDA新宿』の目玉となる。

　より強靭な組織にするために、大きな人事改革も行った。例えばBEST ISHIDAグループには「BEST VINTAGE」という中古時計専門フロアがあるが、今までは正規時計販売部門と人材が完全に分かれていた。しかし時計やブランドの歴史を深く知る中古時計専門フロアの人材の知識は現行モデルの魅力を伝えるのに大きな武器となるし、現行モデルの価値を知っている人材だからこそ伝えられるヴィンテージウォッチの魅力もあるだろう。幅広い経験と知識を備えたスタッフを育成していくことは、時計店としての魅力を高めることにもつながる。

「私は長年ビジネスマンでしたので、高級時計はとても特別なものでした。だからこそ時計店というのは特別な一本を選ぶ場所にならなければいけないし、それが思い出になるような場所でなければならない。アフターコロナの時代を前に、既にお客様からの時計店の選別は始まっていると思います。外出機会が減り、買い物も手短に効率的に行うのが当たり前になった世の中では、時計店の在り方も変わってくるでしょう。“このお店に来たい”と思わせる仕掛けが必要なのです。『ISHIDA新宿』ではリニューアルに際しては、各ブランドの壁をなるべく作らないようにして、空間のビジビリティを高めました。さらに各フロアのブランド構成も、世界観の統一を考えながら練り上げています。目玉は3階フロアのヴァシュロン・コンスタンタンで、旧来の売り場面積を2倍以上に大きく拡大し、日本最大級のコーナーとしました。」

2階にはブライトリングやタグ・ホイヤー、ロンジンといった実力派が勢ぞろい。壁を作らない構造なので、ブランドからブランドへと見て回るのも容易だ。

　たしかに『ISHIDA新宿』を巡っていると、フロアごとに世界観が変化していくのがわかる。自分が好む時計ブランドが集まるフロアがあり、ちょっと背伸びしてチャレンジしたいブランドのフロアがあり、カジュアル使いの時計が集まるフロアがある。そういった“時計との出会い”を楽しむ場所なのだ。

「お客様がいち早く欲しい時計に出会えるように、コンシェルジュ制度を新たに導入しました。コンシェルジュは時計に関する豊富な知識を持っており、お客様のニーズに合わせて適切なフロアに案内することができます。この制度はこれから始まるサービスであり、まずは新宿と表参道に2名ずつ配置します。大きな枠組みは私が考えましたが、サービスの内容はコンシェルジュ自身にも考えてもらいたい。サービスに肉付けをし、魂を込めるのはスタッフの役目であり、それが会社の新しい土壌となっていくでしょう。」

地階にはヴィンテージウォッチのミュージアムが入る。過去の希少なモデルを間近に見ることができるのも『ISHIDA新宿』ならではの楽しみである。

　高級時計店の役割は、時計を販売するだけではない。時計と出会う楽しみを作り、時計と過ごす時間を提案する。そのためには商品と空間だけでなく、スタッフも不可欠だ。石田充孝はこれまでに経験を活かし、株式会社ベスト販売（BEST ISHIDAグループ）をさらなる高みへと押し上げることを望んでいる。