Certified Watch Coordinator販売スキルの向上と時計文化の普及・発展に貢献する「ウオッチコーディネーター資格検定制度」 01

　1970～1980年代にはクォーツ時計の台頭で、存続が危ぶまれたが、1980年代末から90年代にかけて価値が見直され、見事に復権を果たした高級機械式時計。それは今や、我々の日常を彩り、人生の節目を飾る重要なアイテムとして確かな定着を見せている。

　現在、この高級機械式時計はインターネットを通して入手することも徐々に増えているが、やはり正規商品を取り扱う時計専門店が信頼と安心の面で何よりの存在である。

　ただ、そこにもひとつの問題があった。それは販売を担当するスタッフによって時計に対する知識や情熱に、どうしても差が生まれてしまうこと。この問題を解決すべく、一部のブランドでは、そのブランドに特化したセミナーを行うこともあったが、なかなか時計全般に対する広範な知識を習得し、それを認定する制度が確立されてこなかった。

　そこで2011年に日本時計輸入協会がスタートさせたのが「ウオッチコーディネーター（CWC）資格検定制度」である。時計の歴史や構造、さらに販売についての基礎知識など、時計に関する幅広い知識を修得し、それを認定する検定制度となっている。

　今、この制度を積極的に導入し、販売に役立てている時計店が増えている。1976年に創業した福井の名店「ジュエリーパリ」もそのひとつ。

「当社が初めてCWC検定に取り組んだのは2011年。現在では18名のスタッフのうち、上級CWCが5名、通常CWCが9名、在籍しています」

　こう語るのは「ジュエリーパリ」の河出泰喜（かわで たいき）さん。ではCWCの資格はスタッフにどのような影響を与え、実際の販売において、どんな役割を果たしているのだろうか？

「お店全体として時計の基礎知識の底上げになり、資格取得によってスタッフの自信にも繋がっているように感じます。弊社では“CWC受験＝安定した基礎知識を得る”ことにより、接客の質の向上に繋がると考え、時計販売における登竜門のような大切な試験だと思っています。現在は、新入社員は漏れなくCWCの資格を取得するよう取り組んでいます」

　では実際にCWCの資格を取得したスタッフは、この制度についてどう考え、役立てているのだろうか？　自身も2021年にCWCの資格を取得した河出さんに引き続きお話を伺った。

　そもそも河出さんがCWC資格を取得しようと思ったきっかけはなんだったのですか？

「資格の取得以前、お客様に時計の内部の構造や歴史についてお尋ねされた際、すぐに答えられず、『もっと勉強したほうがいいね』と言われたことがありました。それがとても悔しくて、もっと勉強しようと思ったことが資格取得のきっかけです。

　そこで、2020年の11月末に試験に申し込み、そこから約2か月間、時計について、ひたすら勉強しました。１日に3時間ほど教科書を繰り返し読み、重要なことをノートに書き写して記憶しました。さらに試験日が近づいたころには、試験に出そうな部分のQ＆Aを書き出した暗記カードを作り、これを使って勉強しました」

　日々の業務の合間を縫って、このような勉強をすすめるのは並大抵の努力ではないはず。しかし、河出さんはそれをやってのけたのだ。

「実際の試験では教科書の記憶だけでなく、きちんと内容を理解していないと解けない問題が多いので大変でした。しかし、教科書の内容が分かりやすく記載されており、とても理解しやすかったので助かりました」（河出さん）

　こうして見事に試験に合格してCWCの資格を取得した河出さんだが、実際の販売において、どのように役立っているのだろう？

「まずなんといっても誇らしいのは、名刺に『CWCウオッチコーディネーター取得』と記載できることですね。そして、この名刺を渡した時のお客様の反応が違います。『時計の事に詳しいんですね。資格を持ってるなんてすごいです』と言ってくださることが増えました。また、資格を取得したことで、お客様との会話により厚みが出ました。今まで、質問をいただいても、一旦、お預かりし確認してから返答していたのですが、質問をいただいた、その場で答えられ、お客様からの質問に柔軟に対応できるようになったのが、なによりの成果です」（河出さん）

　接客での悔しい思いをバネにCWC資格を取得し、実際の販売に役立てている河出さんだが、資格を持つウオッチコーディネーターとして、お客様に自信を持ってお勧めできるアイテムはありますか。

「なかなか難しい質問ですね。当店にあるすべての商品がお勧めではありますが、どれかひとつというのならグランドセイコーの『SLGH005』でしょうか。特徴は白樺をイメージした美しく個性的な文字板です。2021年にスイスで開催されたGPHG（ジュネーブ・ウオッチメイキング・グランプリ）でメンズウオッチ賞を獲得し、グランドセイコーの歴史の輝かしい1ページを飾ることになった人気のモデルです」

　単なる肩書にとどまらず、販売スタッフに深く広範な知識を与え、接客にも役立つCWC検定資格だが、ショップを統括する側は、その成果をどう評価しているのだろう。

「まずスタッフ自身が資格取得に向けて試験勉強をしっかり行うことにより、本当の意味での時計の基礎的な知識が身についたことを高く評価しています。そして、知識の引き出しが増えることで、お客様のご質問に、その場で自分自身の言葉で答えられるようになり、スムーズかつ有意義な接客時間が増えたと思います。

　また、プロのセールススタッフならではの専門知識をお伝えするだけでなく、高級時計が初めての方にも分かりやすくお伝えできるように成長しました。接客の際の語彙が、以前より格段に豊富になっていると実感しています」（河出さん）

　スタッフの知識向上やセールス担当者としてのスキルアップはもちろん、ショップの販売においても大きな収穫が期待できる日本輸入時計協会の「ウオッチコーディネーター資格検定制度」には通常のCWC資格と、より詳しい知識が要求される上級CWCの二種類がある。しかも、この検定は時計業界への就職を目指す方や時計に興味を持つ一般の方の受験も可能。試験は毎年1月に東京と大阪で実施されているが、詳しい受験方法やテキストの入手については、日本輸入時計協会のウェブページを参照いただきたい。