VACHERON CONSTANTIN | ヴァシュロン・コンスタンタン パトリモニー・コンテンポラリー・エクストラフラット・キャリバー1731

　 ごくわずかな時計メーカーしか実現できない技術、それは製造が最も難しいと考えられているオロロジカル・コンプリケーションでしょう。マニュファクチュール ヴァシュロン・コンスタンタンは、2世紀以上に亘ってこのような驚異的な小型装置を作り続けてきました。そして現在、ジュネーブ・シールを取得したパトリモニー・コンテンポラリー・エクストラフラット・キャリバー1731によって新たな一歩を踏み出しました。この優れた技術によるマスターピースには、傑出した複雑機構が備わっています。製造に当たっては、現在生産しているタイムピースの中で最薄のミニット・リピーター・キャリバーを開発し、最薄のミニット・リピーター ウォッチとして発売するという挑戦が行われました。ムーブメントの厚さは3.90mm、ケースの厚さは8.09mmとなっており、どちらも最高の時計製造技術によって製造されています。

　 電灯照明が出現する前の時代に、暗闇でも時刻がわかるようにするために最初のミニット・リピーター ウォッチが発案されたのは18世紀のことでした。現在では、このコンプリケーションはもはや絶対に必要なものではなくなりましたが、時計製造技術の最高峰としてその存在感を示し続けています。これは小型のリピーター・ウォッチはそれぞれが唯一無二の存在であり、これを製作した時計師のシグネチャーでもあるからです。それぞれが独自の人生を歩み、自分だけの音楽を奏でます。そしてその素晴らしい時の流れは鐘の音の響きで刻まれます。このミニット・リピーターは、1時間、15分、1分を音で知らせてくれます。リピーターのスライダー （この場合はケースサイドに見えるコンプリケーションとしての唯一の要素） をスライドさせると、ハンマーがゴングを打ち鳴らします。低音は「時」を、低音と高音の2つのゴングは「15分単位」を、そして高音は「残りの分」を知らせます。

受け継がれる伝統

　 ヴァシュロン・コンスタンタンは、ただ単に伝統を積み重ねるだけではなく、傑出した時計との永続的なラブストーリーを作り上げています。マニュファクチュールがポケットウォッチに搭載する最初のミニット・リピーターを作成したのは1810年のことでした。その後何十年にも亘って、この傑出した機構は主なコンプリケーションと組み合わせられ、それぞれがその時代で最も複雑なたぐい稀なタイムピースとなりました。1929年にエジプトのフアード王のために製作された時計や、1935年にその息子であるファルーク王のために製作されたタイムピースは、それぞれ歴史的価値が高いものです。1941年、ヴァシュロン・コンスタンタンは内部に超薄型のムーブメント、キャリバー4261を搭載したミニット・リピーターを備えた最初のリストウォッチを発売しました。数年に亘って究極の薄さを追求し続けた結果、1992年、マニュファクチュールはキャリバー1755によってこれを実現しました。前例のない厚さわずか3.28mmのミニット・リピーターが誕生したのです。今日、ヴァシュロン・コンスタンタンでは、先代モデルにインスパイアされ、創業者であるジャン=マルク・ヴァシュロンの生年にちなんだまったく新しいキャリバー1731を搭載したコンプリケーションを自信を持って発表します。

キャリバー1731、革新的な装置を搭載した最高の宝石

　 ヴァシュロン・コンスタンタンがスレンダーで、ピュアな音と美しいデザイン、高い信頼性を備えた、頑丈な新しいミニット・リピーターの作成に着手したのは2009年のことでした。これらの難しい条件を満たすのに4年の歳月がかかりました。新しいキャリバー1731は厚さが3.90mmで、先代モデルの3.28mmに比べて若干厚くなっていますが、これは驚異的な65時間のパワーリザーブを備えているためです。にも関わらず、今日生産されているタイムピースとしては最薄であり、これを実現するまでには難しい部品の組み立ておよび調整を克服する必要がありました。キャリバー1731にはヴァシュロン・コンスタンタンが2007年に開発したキャリバー2755の精巧な装置が組み込まれているため、超薄型という大きな特徴を兼ね備えています。キャリバー2755は、ミニット・リピーターを備えた最高級シリーズに属し、フライングガバナーを備えていました。従来のレバータイプのガバナーとは異なり、フライングガバナーはまったく音を出しません。その役割は、ハンマーがゴングを打つ間隔を一定に保つことです。ガバナー（レギュレーター）がないと、バレルの強さに合わせて音が打ち鳴らされ、時にははっきり聞き取れないような音になることがあります。ヴァシュロン・コンスタンタンが開発した装置には、ガバナーの回転シャフトでブレーキとして動作するように設計された2つの慣性ブロックまたはウェイトが収められています。これによって、バレルによって供給された動力が均一になります。これを達成するには、2つの対立する遠心力と求心力を利用します。ガバナーが回転すると、遠心力によってウェイトの一方の端が外側に向かって回転するため、もう一方の端が回転スピードを抑えるようにシャフトを押します。これによって、一定のスピードが確保されます。最も小さなディテールにまで完璧な仕上げが施されていますが、ガバナーに付属したヴァシュロン・コンスタンタンの紋章であるマルタ十字をキャリバーの正面から見ることはできません。

完璧な調和を求めて

　 パトリモニー・コンテンポラリー・エクストラフラット・キャリバー1731を傑出した存在にしているのは、その音の素晴らしさであり、これを完成させるためには特別な調整が必要になります。透明感のある美しい音を作り出すため、さまざまな技術が使用されています。ゴングは音を増幅するためにミドルケースにつながっているだけでなく、並んでではなく重ねて配置されています。ケースはムーブメントに合わせて製作されており、音が最適に広がるように、機構とケースの間には空気の流れが発生する構造になっています。完璧な調和の探求はこれだけではありません。ケース自体につなぎ目がなく、文字通り金属と金属が触れ合っているため、音の広がりが良くなっています。

　 時計師がそれぞれの音楽をミニット・リピーターに奏でさせるには、組み立てと微調整に数カ月を要します。この音は、マニュファクチュール内の鋭い聴力を持った専門技師によって決定されます。また、低音と高音の完璧な調和には特別な調整が必要になります。音に関するテストが実行されるのはちょうど4時49分です。なぜならその時刻は、「時」を知らせる音が4つ、「15分単位」を知らせる和音が3つ、「残りの分」を知らせる音が4つというほぼ等間隔で鳴らされるため、はっきりと聴き取ることができるからです。

　 リピーター・ウォッチの魂であるチャイムは、時計がマニュファクチュールから出荷される前に録音されて、厳重に保管されます。これは、「サウンドプリント（音を識別する特徴）」としてヴァシュロン・コンスタンタンのアーカイブに登録されます。この方法によって、現在発売している時計だけでなく、過去に発売された時計を含めたすべてのタイムピースを長期間に亘って修理することが可能になっており、さらにワークショップ内でミニット・リピーターが付属した各モデルのそれぞれの音を復元することもできます。

卓越した時計師による仕事

　 傑出した時計師にとって、優れた時計作りに携わることは最高の栄誉です。時計作りに適した手先の器用さに恵まれていること、厳しい忍耐を要する長期間の経験があること、そして音楽的に優れた聴力を持っている必要があります。時計師には、上流階級の人々の厳しい鑑識眼にかなう傑出した機構を作り出す能力が必要とされるからです。ヴァシュロン・コンスタンタンでは、「グランドコンプリケーション」ワークショップに属す熟練した時計技師のみがこれらの素晴らしい時計の製造に携わっています。この聖域とも言えるワークショップに所属するには、少なくともほかのワークショップで15年の経験を積み、さらに2年間の修行期間が求められます。ミニット・リピーターはおそらくすべてのコンプリケーションの中で最も魅惑的な存在でしょう。多数の小型部品を根気よく組み立て、スムースに動作し、完璧な音を出すまでに何度も調整を繰り返す必要があります。1つの時計を組み立てて、調整するのに3か月から6か月を要します。これには、あらゆる場面で集中力が要求されます。なぜなら、ゴングにやすりを1回かけただけで、音が違ってしまうからです。

　 このような複雑機構を作るために、時計師は1,200以上の道具を使います。これらの多くは時計師が自分自身で作ったものであり、1回しか使わないものも含まれています。これらの道具一式に加えて、時計師にとっての究極のツールは自分自身の耳です。音の調整段階でミニット・リピーターにその時計師自身の音を奏でさせることは、その時計師の「シグネチャー」を付与することに他なりません。